農業

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企業から農家・職人まで、人物を追うルポライターがそれぞれの分野でキラリと光る"面白い人"をご紹介

珍しい野菜を作る農家の取り組み

2010/01/27

2009年初頭、私はビジネス雑誌の取材で、有機無農薬野菜を作る新規就農者・関谷航太さんに取材をする機会を得た。日本中が不況で停滞気味のなか、関谷さんは着実に売上げを伸ばしていた。

 08年後半以降、ニュースや雑誌などのメディアでは「儲かる農業」をキーワードに、様々な農業の取り組みを紹介していた。しかし、そのときにクローズアップされるのは、ある程度規模の大きなところが多かったのも事実。それだけに、夫婦で農業を営む関谷さんのアグレッシブさには大きな感動を覚えずにはいられなかった。
 関谷さんの農業スタイルは「少量多品目の有機無農薬野菜を直接消費者に販売する」というもの。彼は言った。「農協経由で販売する既存農家は、コストを下げて生産性を上げることだけに努力を傾ける。全員がその方向のため、大量の野菜が市場に流れ込みます。結果、野菜の安値、大暴落が起こる。でも、私たちの農業スタイルであれば、市場が暴落しようとも負けません」
 さらに、こうも話した。「自分たちのスタイルで農業に取り組んでいる農家は多くいますよ」。

 09年秋に、農業に関する自分の本の刊行が決まり、さらにビジネス雑誌でも農業に関する連載を受け持つことになり、私は関谷さんが語った「自分たちのスタイル」を貫く、あるいはそのスタイルを目指す農家さんの取材を重ねていった。さらに、農協に出荷するという“旧態依然”のスタイルで農業を営む新規就農者にも取材をした。その取材は、今も続いている。
 こうした取材を通じて、農業というものは「十把一絡げ」ではくくれないものだということを痛感した。一人ひとり、それぞれの視点で農業に向き合っていた。闘う起業家の姿が、そこにはあった。

 このコラムでは、そうした農家の取り組みを、様々な角度から紹介していきたいと思う。その結果、日本の農業の可能性を感じとってもらえれば、すごくうれしい。

【写真:和知健一さん。茨城県那珂市の約7反の畑で野菜作りに励む。(撮影・大倉琢夫)】

 前置きが長くなってしまった。今回は、野菜の品目で、ほかの農家との差別化を図る「ポコ・ア・ポコ農園」の和知健一さんを紹介したいと思う。彼は脱サラし、農業の道を志した人物。就農したのは07年6月だ。

 農業に関する技術を農業実践大学校などで習得していった和知さんが、最後まで悩んだのは「どんな作物を栽培するか」だった。有機無農薬で野菜を作る決心は固めていたが、競合農家も多く「普通の野菜では太刀打ちできない」と考えたのだ。だから悩んだ。

 実践大学校を卒業後、「異国の地で見聞を増やしたい」と、青年海外協力隊として海外に飛んだ。そしてメキシコの高山地帯でトマトのハウス栽培のノウハウを地元民に教えた。そこで和知さんは、メキシコ産のトマトの品種の多さに驚きを覚えることになる。

「栽培トマト(露地)の発祥地はメキシコなんですね。それだけに、多数の品種があるんです。木になるトマト(トマテデアルボル)というのもあった。本当に驚きましたね」
 さらに見渡すと、ズッキーニの品種も多いことに気づいた。それだけではない。イタリアやイギリスなどにも、興味深い野菜が数多くあることを知った。

 和知さんは「これらの野菜は日本には出回っていない」という事実から「日本で売れば、面白い!」と判断し、海外の野菜を軸に作っていくことを決意。帰国後、早速栽培を開始した。
 問題は「販路」だった。野菜好きな人にアピールすれば、必ず売れると思ったが、どのようにアピールすればいいのかがわからなかった。そこでまずは地元(茨城県)の直売所で販売を行ってみた。すると、予想外の出来事が起こった。珍しい野菜を探していたレストラン経営者が直売所で購入し、その後、直接の取り引きを依頼してきたのだ。

 このことに可能性を感じた和知さんは、全国のレストランにアピールしようと、ホームページを立ち上げ、そこでも珍しい野菜を紹介していった。レストラン経営者から「これは、どうやって調理すればいいの?」とよく聞かれたので、ブログで調理法も紹介した。こうした取り組みにより、販路は徐々に広がっていった。現在、国立ファームが運営するレストランなどでも、和知さんの野菜を食べることができる。

 さらにレストランに生産者情報を載せたチラシを置いたところ、一般の消費者からも問い合わせが入った。

【写真:様々な種類のトマトを栽培している。09年は約60品種を栽培した。(撮影・大倉琢夫)】

09年は、約60品種のトマトを栽培した。「そんなにあるんですか!?」と、筆者が驚くと、「まだまだあるんですよ」と、和知さんは笑った。
「日本で栽培されていない品種のため、どうしても風土が合わず、育たない品種もありますし、日本人の味覚にあわない品種もあります。それを見極めるには、やはり作ってみるしかないんです」
 珍しい野菜を育ててレストランの経営者が興味を示すと、本当に嬉しいと和知さんは話す。
「だからこそ、これからも日本で未知の美味しい野菜を発掘し続けていきたいですね」
 新規就農者のなかには、過去の野菜の品目別経営統計(農林水産省が発表)を見ながら「ダイコンの1時間当たりの農業所得は2000円だ」といった具合にチェックし、どの野菜を作るか決めるケースも少なくない。しかし、そこに出ているデータは、いわゆる王道の野菜ばかりだ。それでは品目で差別化を図るのは難しい。そうしたデータとは違う次元で、和知さんは野菜の品目を決めていった。そのスタンスが、珍しい野菜を求めるレストラン経営者との出会いにつながったのだ。
 

  • 永峰英太郎
  • 永峰英太郎(ながみね えいたろう)

    ルポライター。1969年東京都生まれ。明治大学政治経済学部卒。業界紙・夕刊紙記者、出版社勤務を経て、フリー。企業ルポ、ビジネスマンや農家、職人などの人物ルポを得意とする。
    著書に、イチロー、松井秀喜、中村俊輔、宮里藍ら一流選手の道具を作る、スポーツ界の匠たちをルポをした『日本の職人技』(アスキー新書)、いちご農家、酪農家など一般サラリーマンから農業に身を投じた8つの詳細な事例から、転職先としての農業のリアルな実態をレポートした『「農業」という生き方』(アスキー新書)がある。問い合わせはeitaro.nagamine@gmail.comまで。

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