2009.11.12
広島日記
僕らが空港に降り立つと、ポツポツと雨が降り出した。
晴れ男のヒデさんだが、先週から雨と予報されていた今回ばかりはどうもならないだろう。 まだ小降りの中を空港から30分ほどの所にある門藤農園さんへ向かう。 到着した頃にはいよいよ本降りになっていた。 せっかくの農園訪問だったけど、この雨では田んぼなどの見学は見送らざるを得なかった。
ここでもお話を聞かせて頂いた後にご飯を出して頂いた。 自然農法で作られたお米とその合鴨農法で働いてくれた合鴨のたたきを出して頂いたのだけど、このたたきがまた絶品。お昼を食べてなかった僕ら。取材中もお腹がぐぅぐぅ鳴っていただけに、僕と牧ディレクターはヒデさんの倍以上食べた気がする・・。 鴨のたたきをカラシと醤油で頂いたのだけど、やはり農家さんの食事はひと味違うと再確認させられた気がする。

その後は広島市現代美術館へ。大雨と渋滞で予定をオーバー。夕方にフェリーで宮島へ渡らねばならなかった為、半ば早足でまわった僕らだけど、折角の美術館なのに、やっぱゆっくり来なきゃな・・と思ってしまった。
その後フェリーで宮島へ。ついてすぐに事前に調べておいたもみじ饅頭のお店を3件ほどまわる。
「揚げもみじ饅頭って聞いた事ある?」 とヒデさんが言う。 「いや、ないですね。揚げてあるんですかね?」 と牧。 そりゃそうだろうよ、と思った僕だけど、どうにもイメージがわかないので突っ込むのを控えた。
向かったお店は紅葉堂。買いに行ってくれた牧が早足で戻って来た。
「なんか、美味しそうです。目の前で揚げてますから、時間もかかってますし。」 袋をあけると確かに揚げたてのもみじ饅頭が3つ。チーズとクリームとあんこの3種類を交互に回して食べる僕ら。
すると後部座席でヒデさんが声を上げた。 「美味い!(笑)」 B級グルメや駄菓子や御当地グルメに目がないヒデさんだが、ここまでの声の張り上げ方は金賞コロッケ以来ではないか、と妙な事を考えてしまった。僕も食べてみたのだけど、この「揚げる」というのが、意外に甘みを良い具合に引き出していて、3種類どれも外れなしの美味さ。 ヒデさんはクリームが気に入ったようだが、僕としてはチーズが美味しかったな・・。ちなみに牧はどれも「うまいっす!」と言って食べていた・・。
雨も上がった翌朝、出発前に宿の庭で牧と下らない話をしていると、カサカサッと茂みの方で音がした。
ハッとして目を音の方に向けると、なんとも可愛らしい子鹿がこちらを見ていた。 昨晩雨の中の真っ暗な道に普通に佇んでいる大人の鹿に4回ほどビビらされた僕ら人間たちなのだけど、この子鹿は僕らを恐れもせず、カメラを向けるとポーズまでとってくれた。
調子に乗った牧が「子鹿ちゃーん」などと言って近づいて行くと身の危険を感じたのかサササッと逃げて行ってしまったのだけど、朝からものすごくいい気分にしてくれたあの子鹿。これもまた、旅の出会いだな、と思った。

この日はまず、榎酒造さんへ ここでヒデさんは、待望の酒造り体験をする事に。 洗米と麹室での作業。
鳥取の大江ノ郷自然牧場で借りた作業着に触発されたヒデさんは、知り合いのアパレルブランドのアタッチメントさんに作ってもらった作業用の「つなぎ」をこの日から持参していた。 仕上がりは実際にかっこよく、背中にはnakata.netの文字が。

ここまでこだわる所を見ると、ヒデさんは仕事に遊びを見つける事が上手なのだなと思う。ん?それとも遊びを仕事にするのが上手なのか・・どっちだ・・? 洗米はまだそこまで寒くない今(11月上旬)はいいのだろうけど、真冬の寒さの中で10℃に保たれた水との作業の厳しさは想像に難くない。この日もヒデさんは帰りの車で「水がマジで冷たくってさぁ・・あれは大変だよ・・」と驚いていた。
その次の作業は麹室にて。外での洗米とは打って変わって30℃の部屋での作業。ヒデさん含む男4人での作業で、それぞれがしたたる汗をタオルで拭う。僕らがあんなにも美味しく楽しく飲むお酒。
これだけの職人のこだわり、そして暑いも寒いも言わずに仕事をする彼らの集中力の賜物なのだな・・。 たまに飲み過ぎて二日酔いになって反省したり・・けどこれだけ大事に造られているお酒である。お酒はやはり楽しく飲まなければ、と心で思ったし、僕ら消費者がそうする事、それだけがこの酒造りをされる方々が唯一望まれる事ではなかろうか。

その次は、何人もの有名な書道家さんがご指名する川尻筆の職人である、畑さん訪問。
初めて筆の作られる過程を知ったのだけど、素人から見るといつまでやるのだろう・・と思ってしまう程に丁寧に繰り返される毛の選別作業など、これまた気の遠くなるような作業に驚いた。
こういうストイックな気質と言えば、何を隠そうヒデさんも同じだ。畑さんに一から教えて頂きながら、予定の時間を大幅に越え、結局2時間半ほど作業をしていた・・。
毎回体験をすれば「筋が良い」と褒められる彼。最初僕は「またまた・・皆さん褒め過ぎだなぁ・・」などと横で密かに思っていた。
けど、ここまででわかるのは、どうやらヒデさんは意外と手先が器用で、けど小手先のうまさばかりでもなく、こう、勘がいいと言うのか、とにかく飲み込みが早い。元々職人気質なのかもしれない・・。

その後は広島市内に戻り、平和記念資料館を案内して頂いた。中学の修学旅行以来だったのだけど、やはりあの時と今では感じ方が全く違う事に気付いた。昔はここで起こった事がどれだけ恐ろしい事かさえイメージ出来ないでいたと思う。
けど今回、僅かながらも、これまで培ってきた様々な経験が少しだけ僕の想像力を成長させてくれたのか、既に見た事があるはずの色々な資料も、まるで初めて見るかのように心に入って来た。感じる感覚のほとんどが「恐怖」ではあったのだけど・・昔はそれすら感じる事が出来ていたのか・・疑問だ。
資料館を後にして、言葉少なげに今日の宿「石亭」に向かった僕ら。 この日の夕食はカツカレーだ。
ヒデさん同様、僕の大好物でもあるカツカレー。大好物度で言ったら僕は負けない自信がある。死ぬ前に何を食べたい?と聞かれれば迷わず「カツカレー福神漬け多めでお願いします」、と言うだろう。
それはともかく、ここではなんと三種類の豚をご用意頂き、それぞれを少しずつ食させて頂いた。いつもは小食のヒデさんが、一番にお代わりしているではないか。ヒデさんがそうするのを待っていたかのように、牧がそれに続く。
「牧の方がルー多くねぇか?」や、「牧のカツ多くねぇか?」 というような微笑ましい会話が弾む。 色々な宿で美味しい懐石料理を頂くのだけど、たまにあるカツカレーの夜こそ、一番楽しい気がする。
3日目は早朝から平和記念公園へ。 この日は晴天。通勤途中の人たちが、気持ち良さそうに公園を歩いている。
ご案内頂いた平和記念資料館の方に、こんな気持ちの良い通勤路は東京にはないかもしれません・・などと愚痴りたくなるほど、羨ましい光景だった。

旅は春に始まり、既に秋を迎えている。 最近、季節とともに色を変える山を見たりして思うのは、かつてこれほどまでに四季を意識して過ごした年があっただろうか、という事。
そのせいか、夏至や残暑や立秋などの正確な言葉の意味を調べるようになったのだけど、そんな僕の心は最近豊になった気がする。
次はいよいよ四国、愛媛へと向かう。