2009.09.21

岡山日記

鳥取を出た僕らは米子自動車道を南下した。
東には、標高1700mを超えるという大山(だいせん)がデンとそびえている。 緑溢れる山々が、9月の残暑を少しだけ涼しくしてくれている。 岡山の初日は到着が夕刻だった事もあって直接宿へ。
「我無らん」に着いたのはちょうど日没間近の時間だったのだけど、宿の前にとても雰囲気の良い川が流れていて、散策コースまであった。 夕食の時、ヒデさんがメニューを見ながら言う。
 
「お、あるある。このホルモンうどんとデミかつ丼って、岡山では有名なんだって。本に書いてあった。」 個人的にヒデさんは大のB級グルメ好きなのだと思うけど、このホルモンうどんとデミかつ丼はまさにそんな感じで、見た目が既にB級(すみません!)なのだけど、ガツガツと食べられて、どれも想像したより数倍美味しかった。
ヒデさんも一口食べたあと、「うまい!」と絶賛していた。ちなみにこの人の「うまい」はなかなか出ない。
 

 
日は朝から快晴。清々しい山間の高速道路を少し北上。郷原漆器さんを訪問した。
インターを降りると、車の中にまで伝わってくるほどに蒜山(ひるぜん)高原の涼しげな空気に包まれたのがわかった。すぐに窓を開けるとヒンヤリした空気が入って来た。思いっきり深呼吸してみる。
その清い空気が全身の血管を通って内部からクリーニングされているかのような気分になった、というのは言い過ぎか。周りの景色ものんびりとしていて、ドライブには最適の朝の時間。しかし目的地はインターを降りて3分ほどのところ。もう少し走っていたかったな・・・。
 
漆器作りは基本的には木を削る作業も今は機械を使うのだけど、今回ヒデさんはロープを使った人力モーターで昔ながらのやり方を体験。しかしこれ、ロープを両手で交互に引っ張って機械を回す方と削る方の息が合わないとうまく削れず、非常に難しそう。
それでも削りの音を聞いていた80歳を超える親方からは、「良い音をさせているよ。」と褒められるヒデさん。「そうですか?」なんて言って、結構嬉しそうだ。
 
ギューン、ギューンと音をたてながら機械を回している若手職人のホープ、高月さんの額から汗が流れ落ちる。20分ほど経ち、ヒデさんが「ちょっと交代してあげたら?」と僕に言った。いざロープを握ってやってみる。めちゃくちゃキツい。5分もせずに「す、すみません・・」とギブアップ・・。また自分に、ガッカリした。
 

 
その日は他に酒蔵の辻本店さんを訪問。すでに何十もの酒蔵をまわっているヒデさんは、今となっては日本酒造りに関してかなりの知識を持っている。杜氏さんとの会話でも、洗米、麹作り、しぼり、火入れ、などの専門用語が頻繁に飛び交うのだけど、近頃それがとても自然で、様になってきたようだ。
ちなみに僕は現場を離れたりする事も多々あるので、いまだに酒造りについてはほとんど無知のまま・・。 ここ辻本店は、まだまだ日本では少ないと思われる女性杜氏。蔵に入って間もない頃のお話や、女性だから作れる新しい日本酒についてなど、これまでの男性杜氏さんとはまた違った、興味深い話を聞かせて頂いた。 そして中庭がまた素晴らしく良かった。
 

 
翌日は備前焼の体験へ。 ここでは人間国宝の伊勢崎さんのお話を伺う。これまで色々な伝統工芸師の方のお話を聞いて来て、昔ながらの技術や伝統、あるべきかたちなどを守る事の難しさを実感してきた。
そういう話を聞きながら、ヒデさんも考え続けていたのではないか。
その素晴らしい価値ある伝統工芸が、なぜ今僕ら若い世代の目の届く場所にないのかという事を。 時代は変わり、人々の嗜好も変わる。その変化と昔ながらの匠が作り出す工芸品はどうすれば調和させる事ができるのだろう。そんなある意味、僕ら側の考えで行き詰まっていた所に、伊勢崎さんがこんな事を言われた。
 
「伝統は、変わらないといけません。変わりながら、守られて行くものではないでしょうか。」
これを聞いてハッとさせられた。僕はてっきり伝統とは、変えず伝えて行くものだと思っていた。しかしその「変えない」という部分こそ、新しい世代が一番違和感を持つ部分なのかもしれない。
なんとなく、答えを得たと思えた。人だって、変わる事を強いられたり受け入れたりしながらも、一個人として成長するのだと思う。伊勢崎さんの言葉は、僕にはとても残るものだった。
 

 
備前焼を出た後は宝伝港という小さな港を目指した。車を30分ほど南西へ走らせると、青い海が見えて来た。瀬戸内海だ。空も晴れ渡り、太陽が海に反射してキラキラと光っている。
後ろからヒデさんが、「ついに来たなー、瀬戸内海。」と呟く。 テンションが上がり、気分も天気同様パッと晴れ、やけに饒舌になる僕と撮影ディレクター。 この海の力って、すごい。
港から目的地の犬島までは定期船で5分ほど。 このたった5分の船の移動。9月の残暑に海上で感じる海風。 これが最高に気持ちよかった。
 

 
ここは犬島では、昔の精錬所を残しながら現代アートを融合させている「犬島アートプロジェクト」を見学した。島も大きくなく、ゆったりとした時間が流れる、かわいらしい場所。ここでは入り口の光を鏡に反射させ、その光だけを頼りに進む、というアート(?)があったのだけど、なにか、光がほとんどないという非日常を実感すると同時に、斬新なアイデアを持つアーティストがお金をかけて作品つくったらこんなにも面白いものが出来るのか!とか思ってしまった・・。
 
翌日の昼、岡山市にいた僕らは利守酒造さんを訪問した際に教えていただいた、「やまと」という洋食屋さんを訪れた。こじんまりとした、けど表に人が並ぶほど賑わっているお店だ。 カウンターに並んで座った僕ら。カツカレー、焼き飯、ラーメン、そしてコロッケを注文。どれもヒデさんの大好物だが、僕も同じ。
 
なかなか昼ご飯を食べる機会がないこの旅だから、これほどお腹の空いたタイミングで大好きなメニューを食べられる時などそうそうない。 出て来た品々の味は期待に違わぬ美味しさで、黙々と喋りもせずに食べる僕ら。
お店の人も気軽に接して下さり、お腹をさすりながら大満足で店を出た。
帰りの車で、ヒデさんが言う。 「やっぱ現地の人に聞かないと、本当に美味いとこはわかんないね。」
次は広島へ向かう。

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。