2009.09.01
島根日記
「2時間くらいだな。」 後部座席のヒデさんが言う。
山口県の長門を出た僕ら。車のナビは次の目的地、島根県益田市までの所要時間を約3時間半と示している。距離は約110キロ。
高速はなく、全て一般道を通る事になる。 このカーナビなるものが所要時間をかなり多めに予想している事くらい、我々は既に重々わかっている。
この「2時間くらい」というのはそれを見越しての、ヒデさんの予想だ。
もう数千キロを同じ車で移動したその「感覚」から来るヒデさんの予想、これがまたよく当たる。ちなみに僕のも、当たるのは当たる。
そして予想は的中、約2時間後に目的地である島根県芸術文化センター、グラントワへ到着。
「なんかすごく面白い建物らしいんだよ、これが。」 と個性的な建築を見るのが好きなヒデさんがいうその建物とは、壁や屋根の部分を28万枚もの石州瓦が覆うという、想像しがたいスケールのものだった。
非常に適当な表現だが、その辺の人口10万人規模の街の市役所の全体が赤茶色の瓦に覆われていると想像して頂ければいいかもしれない。
ところが当日は何かのイベント前日という事で閉館日。しかしダメもとで職員の方に掛け合ってみる。するとなんと、責任者のご好意で快く建物の中に入れて頂ける事に。
中庭というか、吹き抜けになっている建物の中央部に入ると、一面が赤茶色に染まっていて、確かにすごい。瓦を壁の部分に使用している辺りが面白いのだけど、何よりも、この見慣れているはずの瓦もこれほど大量に目の当たりにしてみると、まるで別の何かのように思えてくるのだから不思議なものだ。
2日目は早朝6時半に出発。今日は島根県を東へ西へと9ヶ所を周る予定だ。
移動の効率は考えず、行きたい所へと向かう。 まずは宿より東へ約60キロにある物部神社と石見銀山へ。その付近を散策した後、そこからまた宿の近くへ50キロ近く戻り、石見焼きの石州宮内窯さんを訪問。 こちらでヒデさんはこの旅で初めて、傘立てのような大きな焼物に挑戦。
もうだいぶ土にも慣れているヒデさんではあるのだけど、ここでも宮内さんが「へぇー!」と声に出して驚くほどの技術の上達を見せていた。
そこを昼過ぎに出ると今度はまた東へ80キロほど走る。何件か寄った後にヒデさんが資料を見ながら言う。
「水木しげるロードってのがあるらしいよ。お化けの像も沢山あるらしい・・」 では行きましょう、と僕らは境港へ。(一時的に鳥取県に入る) 確かに、駅前には顔馴染みの(?)妖怪達の像があちらこちらにある・・。
そしてそこそこの観光客で賑わっているではないか。しかしやはりみんな若い。どうやらある意味でデートスポットと化しているような印象を受けた。
ヒデさんは車を降りて大島ディレクターと歩いていたのだけど、微妙に浮いている・・。少し心配だったが、僕はアーケードの先へと車を回して彼らの帰りを待った。15分もしない内にこちらへ来る2人が見えた。手には何やら白いものが。ソフトクリームである。 この旅において、美味しそうなソフトクリームを見つけては嬉々として買いに走る旅人とそのスタッフ。
そしてそのソフトクリームが感動的に美味しかったりすると、僕ら3人の結束をグッと高めてくれる重要なツールでもあるのだ。
しかし車に乗るなり、「あ、キンヤの分忘れた。」とサラッと言うヒデさん。
3秒ほど口を開けたまま放心状態に陥った気がするが、仕事なのですぐに我に戻り、「あ、大丈夫っすよ。」と次の場所へ向けて何事もなかったかのようにアクセルを踏んだ。
最後に出雲大社に行こうという事に。時間は既に夕方の6時を回ろうとしている。目的地までは30分ほどかかるという僕らの読み。日没を気にするヒデさん。日没は確か6時40分頃だったはず。急ごうにも丁度渋滞の時間だ。ナビは大通りを行くように指示してくる。するとヒデさんが後ろから身を乗り出して来た。
「これ、大通り行っても多分動かないから、賭けになるけど、裏通りいってみない?」 ヒデさんが言うならそうしましょう!と盛り上がる単純な僕らスタッフ。 すると確かに裏通りの方が全然空いていて、おまけに信号もなくほぼノンストップで出雲大社に到着。
時間は6時半を少し回っている。かろうじて日没までもう数分ありそうだった。ヒデさんと大島ディレクターは参道入り口で車を降りて、ものすごい勢いで走り出す。
大通りをナビの指示通りに来ていたら絶対に間に合わなかっただろうと思う。現代の生活は時に単調になりがち。そして便利な世の中で自分の感覚に頼る場面はますますなくなっている気がする。カーナビは確かにどこへでも楽に連れて行ってくれる。ナビがあれば感覚も思考も不要となる。カーナビの示す方へハンドルを切るだけ。
けど、そんな安全だけど言われるがままの作業に面白みなんて何もない。 今日のヒデさんのように、リスクを負ってでも何かの可能性を見いだすような冒険こそが、僕らに非日常を感じさせてくれるのかもしれない。ヒデさんが言い出さなければ、ただの、出雲大社までの移動に過ぎなかったあの時間。僕には特別な旅のワンシーンとして記憶に残っている。
次は、鳥取へ向かう。

