2013.07.20

山形日記中編2

5日目、まずは天童市へ。ここでは全国にある将棋の駒の9割以上を生産しているとの事。僕らはプロ棋士が使うとされる高級な駒を作られる、桜井和男さんを訪ねた。
「天童は、まだ高級駒を作る意味では、歴史が浅いんです。」と桜井さん。この街で高級駒をつくる事を疑問視する声もあったそう。将棋の駒にも色々と文字の入れ方で種類があるそうで、桜井さんが作られるのは最高級品とされる「盛り上げ駒」なのだけど、この駒を作る職人さんの数も、今となってはとても少ないそうだ。
「対局用の駒は目障りにならないように、なるだけ自己主張の過ぎない文字を心掛けています。」
将棋の駒の字を見ても、上手だなぁ…としか思わなかったのだけど…高級なものにはやはりこだわりがあったのだ。
ヒデさんも、彫りの体験に挑戦。
「刃の入れ方が…難しいんだよこれ…。」と苦戦するヒデさん。
小さな駒と背中を丸めて格闘する後ろ姿が、プラモデルを部屋にこもって作る子供のようでなんとも言えないものだった。
 

その後で菊地保寿堂さんを訪問してから、東北芸術工科大学を訪問。
山形市の少し外れ、蔵王周辺の自然環境が羨ましくなる、そんな場所に大学はある。
この大学の副学長は現代美術家の宮島達男さん。ヒデさんの友人という事で、大学を隅々まで案内して頂いた。僕の隣では芸大出身であるディレクターの牧が、「この人すごい人です…」と何やら興奮気味だ。
 
この大学は1991年に創立されたとの事で、まだあちこちで真新しさを感じる事が出来る。校舎に足を踏み入れると、廊下の先からは生徒達のザワザワとした声が聞こえて来て、こちらまでワクワクした雰囲気にさせてくれる。
宮島さんの説明は、とてもわかり易い上に、何かを見る上で新しい視点を与えてくれるから面白さを感じる。
途中、ある生徒が宮島さんを見つけるなり、自身の作品を持って走り寄って来た。その作品を見せながら、宮島さんから何やらアドバイスをもらうその生徒の目は、視界の悪い僕と牧の心の空気を少しだけクリアにしてくれたのだった。
 

 
6日目、まずは専称寺、護国神社とまわってから、白鷹織の小松紀夫さんを訪問。この辺りは元々養蚕が盛んだった事もあって、紬が普及したとの事。
まずはお話を伺いながら、作品を見せて頂く。派手さはないのだけど、簡単には表現し難いその色の繊細さに、質の高さを伺わせる。
 

 
白鷹織の特徴は、板締め染めと言われる技法から織り出される「絣(かすり)」の模様の織物。この板締め染めという技法は初めて聞いたのだけど、この技法で染めをやる所は全国でもそう多くはないとの事。
作業場を見せて頂くと、機織機をせわしなく動かしていた数名の女性がこちらに挨拶をしてくれた。東北では、こうして地場産業を支える女性の姿を特に多く見る機会があるのだけど、その姿は、どこか男性よりも頼もしく映るのだった。
 

 
それから次は、独自の紅花染めを確立させた染織家である、鈴木孝男さんを訪問。工房の前でヒデさんと牧は車を降り、僕は少し離れた所に車をとめた。次の行き先までの距離と時間をみて、宿の予約確認などをしてから工房へ向かう。そっとドアを開けて入ると、桶で静かに染織作業を行う鈴木さんと、それを見つめるヒデさんの姿が。カメラを回している牧に聞くと、鈴木さんもヒデさんもまだ会話を交わしていないという。僕も黙って作業を見つめていると、どちらからともなく、自然に会話が始まった。
「寒染めと言って、午前2時頃起きて、3時には染めの作業を始めるんです。気温が低い方が良い色が出るんです。」
良い色を出す為に早朝というより、夜中に起き出して仕事をされる事に驚かされる。「鳥と一緒ですよ。暗くなったら寝て、明るくなったら騒ぎ出すんですから。」
 
飄々とした鈴木さんだが、こうした具合に時間が経つにつれて徐々にヒデさんとの会話も弾み出す。染めの原料に関しては、農家さんは大手の化粧品会社に出荷する事がほとんどの事、なかなか手に入らないらしい。だから鈴木さんは自分で栽培した紅花や果物の酸などを用いているという。
鈴木さんに促され、今朝、護国神社で正式参拝をしたままのスーツ姿で染めの作業に挑戦するヒデさんが、「どんな色を目指しているんですか?」と質問する。
「日の丸というか、マグマのような色を出したいですね。紅花の赤だけでは出ない、その色を求めて色々なものを試しています。」
最後にヒデさんにお土産を渡す鈴木さんの表情が、ものすごく優しくて、とても印象に残っている。
 

 
この日最後の訪問先は、陶芸家の佐々木里知さん。
佐々木さん、昨日訪問した東北芸術工科大学で週に4日ほど教えているとの事。
訪問したご自宅は、裏手に川が流れていて、人を何人も集められそうなテラスがあり、ご自分で作られたというピザ焼き窯まである。土地柄、冬は確かに寒そうだけども、なんとも羨ましい、素敵な住まい兼アトリエだった。
数々の作品を見せて頂きながら、お話を伺う。ちなみに家の中も、テレビの配置や冷蔵庫の色、階段、窓際の置物…と、至る所にセンスを感じるのだけど、ひと言で表すとすれば「隙がない」という事になるだろうか。
 
佐々木さん、自身の仕事を「足す」と「引く」という言葉を使って表現されるのだけど、50才を前にして、今は「引く」を考える事が多いという。この表現を聞いて、フラワーアレンジメント(足す)と生け花(引く)の違いで受けた説明を思い出す。きっと、この「引く」という表現は、日本の伝統や文化に密接に関係しているのだと思う。
最後に窯で焼いた自家製のピザを頂いたのだけど、小腹が空いていた僕らにとっては、どんなピザよりも美味しく感じられたのだった。
 

 
山形日記中編3へ続く
 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。