2010.11.27

長野日記 前編

高速道路からの山々の眺めは一面黄色の世界。時期としては、紅葉の一番美しい時期を過ぎてしまっていたらしいのだけど、その“黄色”の美しさもじゅうぶんに素晴らしいものだった。
長野は広い。全国で4番目に広い県であり、総面積は東京、千葉、神奈川、埼玉の合計とほぼ同じというから驚く。

 

初日、まずは組子細工の栄建具工芸の横田栄一さんを訪問。組子とは障子や襖などの建具(たてぐ)を構成する細かい部材の事で、組子細工は組手と呼ばれる小さな木材を釘を一切使わずに手作業で組み合わせて紋様を編み出すという、ものすごい技法らしい。
「建具って何だろう…」と素朴な疑問を持っていた僕。横田さんの話では、「戸や障子など、間仕切りの部分の動かして使うものです。」との事。

 

横田さんは25才で独立される前に埼玉にて1年半ほど修行をされていたそうなのだけど、その時の事を「砂が水を吸うように色々な事を吸収しました。」と話されていた。その話をされる横田さんの表情から、僕にはきっとその1年半がその後のキャリアを支えるとても重要な時間だったのだろうと思い、果たして自分にとってのそういう時間って…と考えたりした。
時間がちょうど従業員の方の休憩時間となり、僕らも混ざってお茶を頂く事に。長野と言えば蕎麦。蕎麦と言えばヒデさんの大好物なのだけど、ヒデさんが皆さんにどこの蕎麦屋が一番美味しいか、と訪ねる。蕎麦打ちを徳島の祖谷でやったという話にもなり、「十割は難しいですよねぇ…」などの話で少し盛り上がっていた。

 

 

その後、僕らは染織家の柳澤保範さんを訪問。
柳澤さんは染織を始めてもう50年との事なのだけど、どこか若々しい空気を感じる。
作品を幾つか見せて頂くと、絵柄や色の雰囲気で、それを着た人の背景までがパッと頭に浮かんで来た。
「作る時は着て欲しい季節をイメージしてから取りかかるのですが、デザインと色を決めるのが一番難しいです。後の技術的作業は淡々とやるだけなのですけど…。」
これを聞いて、「ずっと籠ってやっていると煮詰まったりしませんか?」とヒデさん。「そうなんです。」と笑う柳澤さん、少し煮詰まって来ると好きな俳句を作ったり、写真を撮りに自然の多い近所に出かけたりされるという。
「遊びが多くて、なかなか仕事が進まないので困ってます…。」と照れながら話される。隣にいた奥様がそれを聞いて、「サラリーマンになっていたら、こう自由には出来なかったでしょうね。」とおっしゃったのだけど、その時の柳澤さんがとても幸せそうに僕には映った。

 

 

2日目、朝は6時半出発で宮坂醸造さんを訪問。
社長の宮坂さんに蔵をご案内頂く。酒蔵の方々にはそれぞれお酒に対する強い思いだったり理想があったりするのだけど、宮坂さんも例に漏れず、そうだった。
「全国各地で食が違う訳ですから、土地によって酒の味も変わっていいと思います。魚に合った酒、野沢菜に合った酒、という具合に。」きっとそれは大きく分けるとフランスではワインが、ドイツではビールが、という話になるのだろうけど、やはり色々な文化圏の料理を日常的に食べる昨今の人たちには、なかなかそういう文化は根付きづらいのかもしれないと思った。
クリスマス用に造られた瓶内発酵のお酒をやけに気に入ったヒデさん。試飲する表情を見てゴクッと僕も喉を鳴らしてしまった。

 

 

それから僕らは諏訪大社へ。こちらでは御柱祭のビデオを見せて頂いたのだけど、「木落とし」という、いつだったかテレビで見た事のある、「氏子(うじこ)」と呼ばれる人たちが大木に乗っかって傾斜を滑るシーンはものすごいものだった。最後まで落ちずに木に乗っかっていた人は英雄となるのだそうだけど、そう危険を冒してまでその祭りにかけさせるモノは何なのだろうと気になる。それはきっと大阪は岸和田のだんじり祭りと同様に、その土地の文化を肌で感じなければわからないものなのだろうと思う。
それから僕らは小野酒造店さんを訪問。
蔵の見学時に白衣を着るのだけど、ディレクターの大島がやけに似合っている。その医者のような様が逆に気になって仕方なかった。

 

 

その後は井筒ワインさんへ。この旅で初めてとなるワイン蔵だ。まずは葡萄畑を見せて頂いたのだけど、収穫の時期は過ぎていて、その上生憎の雨。だけど気のせいか、ブドウ畑にはどこか甘い香りが漂っていた。
ヒデさんはイタリアにいた時からワイナリーはよく行っていたという事もあり、日本と海外のワインを比較したりと、日本酒の蔵とはまた違った面白さがあった。
ヒデさんが前々から言っていた事で、日本のワインは味が少し薄めな気がするというのがあったのだけど、「それは土質や気候、ブドウを植えて何年、など色々な要素が絡んでいるんです。」と話してくださった。その後、地下の貯蔵庫に移動して試飲させて頂く。ヒデさんもその質の高さに驚いていたのだけど、運転でお酒が飲めない僕はこちらのワインカステラが絶品だったのが忘れられない。

 

 

初日最後の訪問先は陶芸家の小松幸代さん
場所は茅野市という所だったのだけど、2月くらいになるとマイナス15℃とかまで冷え込むらしい。正直、僕は長野がそこまで寒くなる場所だなんて全く思っていなかった。この日も6℃程でとても寒かったのだけど、「今日なんかは寒いなんて言いません。」という小松さんに対し、「じゅうぶん寒いです!(笑)」とヒデさんがツッコミを入れる。
黄瀬戸は愛知県の赤津でも見たのだけど、小松さんの作品からはどこか女性らしい柔らかさを感じる。こういう比較が最近は出来るようになって来て、少しだけ自分の中に楽しみが増えつつあるのが嬉しかったりする。
「ずっと黄瀬戸をやられているんですか?」とヒデさんが訊く。
「ずっとそればかりやっていると他の物が見えなくなるでしょう?だから1年の内にちょっとはイタズラの時間も入れています。」と小松さん。染織の柳澤さんもそうだったけど、やはり良いモノを作るには遊びも必要なのだろう。

 

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。