2011.11.29

埼玉日記 前編

埼玉県。
千葉でも感じた事だけど、東京で働く知合いにも埼玉から通っている人がいる為か、ほぼ、東京のように感じてしまう。ヒデさんが現役の頃は、代表が宿泊していたホテルが浦和にあったので、何度か行った事もあったのだけど、その時は地方を感じる余裕もなかったと思う。それから数年を経た今、自分がどう感じるのかとても楽しみな旅となった。

 

最初の訪問先は漆芸家の田口義明さん
閑静な住宅街を進んで行くと、一軒、他とは違う、少し目を引く家を発見。そこが田口さんのご自宅だった。中へ入ると、とても採光が良く、羨ましい程明るい家だった。こちらは建てられてもう13年経つとの事だけど、まだ5年も経ってないのではないかと思える程に新しく感じた。
田口さんの作品を見せて頂くと、一つ一つの作品から、世界観のようなものを感じる事が出来た。ヒデさんも作品を手に取っては、ジーッと見つめている。
モチーフとかはあるんですか?とのヒデさんの問いに、田口さんは嬉しそうにこう答えた。
「モチーフかわかりませんが、宇宙的な、星空なんか好きですね。」
こんな風に、自然に好きなものを語れる人が僕らの訪問先にはとても多いのだけど、とても素敵な事だと思う。

 

 

伊奈町を出た僕らは加須市の清水酒造さんを訪問。
ここでは驚く事に、白いカラスを飼われているのだけど、ヒデさんもさすがに初めて見たようで、「へぇーほんとに白いんだな…。」と見たまんまを口にしていた。そんな白いカラスはとても美しくて、普通の黒いカラスがどれだけその色で損をしているかと思うとやるせなくなってしまった…。

 

 

初日最後は日高市へ。陶芸家の今泉毅さんを訪問。
今泉さんはまだ30代前半の、けど落ち着いた雰囲気のあるカッコいい方。ヒデさんのTAKE ACTION CHARITY GALAでお世話になっている、同じく陶芸家の新里明士さんは早稲田大学の先輩らしく、ヒデさんも今泉さんの事は以前から知っていたとの事。
今泉さんの作品は、この年齢の作家のものとは思いもよらないほど、とてもシンプルで落ち着きを感じるのだけど、どこが、という特定が困難なモダンさもある気がして、それはそのまま今泉さんの人間性を表しているように思えた。
今泉さんの作品にはひび状の線が入ったものも多いのだけど、「ひびを好むのは、日本人特有の嗜好ではないでしょうか…」という。もしかすると、日本の詫び、寂びに通じるものがあるのかも知れない、と想像してみる。

 

 

ヒデさんが、「作る側としては、見るものと使うもの、どちらを意識されてますか?」と訊ねる。
「最近はやっぱり、使うものですね。学生くらいまではカッコいいものと思ってましたけど。」
これを聞いて、あぁなるほど、と頷けた。彼の作品から悪い意味での若さを感じないのは、造形を重要視し過ぎる事で損なう実用性とのバランス感覚が保たれているからなのかもしれない。
最近のヒデさんの質問を聞いていると、彼の中で、物を見る為に必要である基準を持つ為の土台作りをしているのではないかと感じる事がある。
最後に今泉さんがこんな事を話された。
「その土地でとれる土などの素材で作陶するのは大事だし、それを止めると軸がブレるんです。けど、今は物流が発達して、色々な所から色々な素材を集められますよね。これからは色々な素材で作陶していくだろうし、それはとても楽しい事なんです。」
確実に、以前とは違う、新世代の陶芸家が生まれている事を感じさせられた。

 

 

2日目、朝から喜多院、仙波東照宮とまわる。この日の朝は0℃。朝の寺社仏閣は涼しい夏の朝もいいのだけど、個人的にはこの神経が研ぎ澄まされるような冷たい冬の朝も好きだ。
それから朝霞市へ移動。書道家の佐伯司朗さんを訪問。
佐伯さんは宮内庁文書専門員として、天皇、皇后両陛下のお言葉や親書などを替わりに書かれている方。
ヒデさんは普段から「字が上手になりたいなぁ」と漏らしている事もあり、この訪問をとても楽しみにしていた。
そんな佐伯さんがまずこう話される。
「プロであれば別ですが、書道には基本的に上手い下手はないんです。」
いやいやいや、とは言っても、やはり下手は嫌です。僕のように30も半ばなのに、書く字が半ズボンの小学生のようではやはり嫌だ。

 

美しい字を書けるのは、センスの問題なのではないかとさえ思っていた僕なのだけど、どうやら違うらしい。
「うまく書こうとするといけません。ぞんざいに書かず、自分の気持ちを相手に伝えようという気持ちを添えます。」
なるほど、忍耐力のない僕は雑に書いて下手さ加減を紛らわそうと早く筆を走らせる癖があったのだけど、気持ちを込めてみると動かす筆が自然とゆっくりになる。
ちなみに、今改めて自分のメモ帳を見ると、これを聞いた後からメモの字は明らかにこれまでのものより落ち着き、読み易いものに変わっている。
どうも、字にはその人の精神状態や健康状態も表れるらしいのだけど、そういう人が自分の字を見たらどう思うのだろうかと考えると恐ろしくなった。
ヒデさんは持ち前の真面目さと素直さで、佐伯さんのアドバイスを聞きながら何度も自分の名前を書いていた。ヒデさんの字もまた、アドバイスひとつで見違える程変わって行った。

 

 

それから今度は春日部市へ。髹漆(きゅうしつ)の増村紀一郎さんを訪問。
増村さんは重要無形文化財保持者(人間国宝)なのだけど、とても親しみ易い雰囲気をお持ちの方。増村さんは、東京藝術大学の教授や同大学美術館の館長などを歴任されて、娘さんも同じ大学との事で、「娘と同じというのも…やりづらいものでした。」と苦笑いを浮かべられた。
苦笑いから滲む優しさから、増村さんが生徒と触れ合う姿が容易に想像できた。きっと、この柔らかさは、若者と日々触れ合う事で自然に醸されたのかもしれない。

 

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。