2011.12.19

栃木日記 後編

森林ノ牧場を出た僕らは日光市へ。天然氷を製造する、四代目氷屋徳次郎の山本雄一郎さんを訪ねた。
待ち合わせ場所に現れた山本さん、その風貌と背景にある冬の山々を見て、日本というより、カナダかどこかの大自然にいるような気分にさせられてしまった。カナダには行った事ないけども…。とにかくとてもダンディで、優しい目が印象的。
山本さんが4代目になられたいきさつが興味深い。3代目はもともと2006年の製造で終わりにしようとしていたのだけど、天然氷という食文化が継承されない事がどうしても気になった山本さんとその仲間達が継承させてもらったのだという。
取材の後半にたまたま3代目の親方がお見えになって、一緒にお話を聞かせて頂く。「元々2代目も弟子を取らない人でしたし、私もそんな気はありませんでした。何と言っても、この仕事は大変で、絶対出来ませんから。」
と3代目。「なのに、どうして4代目を弟子にされたんですか?」とヒデさんが聞き返す。
「この4代目はね、とにかくしつこかったんです(笑)」
と、とても嬉しそうに話される3代目は、山本さんに継がせる際、「何も教えないから。」と忠告したそうなのだけど、蓋を開けてみれば冬になると毎日のように現場に顔を出してくれていたとの事で、「それは本当に心強かったですね。」と山本さん。
3代目と4代目の間は、とても強い尊敬で結ばれているのだなと思った。

 

 

この日最後は金工作家の正田忠雄さんを訪問。ご自宅の裏に作品が屋外展示されているのだけど、雑木林が良い雰囲気を作り上げていて心地良い。
聞く所によると正田さんは、平安時代の鋳物師の子孫だそうで、正田さんの背景に途方もない歴史を重ねてしまい、「ロマンがあるなぁ・・」と唸らされる。
居間のコタツにてお話を伺う。奥さんも友禅染めや茶道もされているとの事で、御抹茶を点てて頂く。ふとしたご夫婦の会話から思いやりがこぼれていて、仲の良さが伺い知れた。正田さんが言う。
「作品作りをしていて、都度驚かされるのは先人の凄さなんです。」
この言葉はこれまでも伝統工芸の職人さんから幾度となく聞いた気がする。皆が皆そう言う程に、真理なのだと思う。
「けどこれからの子供達はかわいそうです。文化に触れる機会もほとんどないですから。だからこそ、鋳金はこんなに良い物なんだという作品作りをして行きたいですね。」

 

 

6日目。まずは朝7時から二荒山神社へ。朝の寺社仏閣巡りは何度も言うけど本当に気持ち良い。ただ、とにかく寒い…。
ちなみに日光は元々この二荒(にこう)と書かれていたとの事で、それが変化して日光と言われているらしい。旅にはこういう小さな驚きが結構あって、楽しい。
続けて日光山輪王寺へ。
こちらの本堂は昨年虫食いが見つかったとの事で10年かけての改修工事中だったのだけど、8時から行われていた一日の平和を祈る勤行(ごんぎょう)などを見学させて頂けた。担当の方に「それにしても…寒いですね…」と当たり前の事を話しかけると、「えぇ…今で、−4℃くらいですね…。」との答えが。これだけ寒いと、日の当る場所が本当に温かくて、感謝したくなる。お天道様、と言う風に、様付けしたくなるのもよく理解できた気がした。

 

 

それから僕らは栃木最後の訪問先、お味噌のはるこま屋さんを訪問。
ご主人の五月女さんは、もともと東京でライターさんとして活動されていたらしく、「環境や残留農薬などのかたい話を書いていました。けど、好きな音楽も同じくらい書いてましたね。」との事で、なんとも面白い雰囲気の方。
有機農業などの取材をする内に、お父さんが続けていた味噌づくりに通じる部分を見出し、30才の時にご実家に戻ってから天然醸造の味噌づくりを始めたという。そんな五月女さんの言葉で印象的だったのは、「手間暇を越える技術はない。」というもの。以前、農家さんの「足音が一番の肥料」だったり、工芸師さんの「単純と思われがちな基礎技術が一番大切。」という言葉を聞いたりしたのだけど、分野をまたいでも大切な根幹はどれも同じなのだと思う。

 

 

栃木の旅では、陶芸や竹、指物や鋳金というのが特に印象に残っているのだけど、それは多分、それぞれの工芸師からは未来ある子供たちの事を考えながら作品にメッセージを込めているんだな、というのを聞いたり、感じ取れたりしたからかも知れない。それは何も工芸に限らず、安全な食を届けたいと製造にこだわりのあるはるこま屋さんなどにも言える事なのだけど。
ただ、そこに仕事があるからこなすのでなくて、ある目的の為にその仕事をツールとして使う事。考え方一つで、自分の小さな世界も一変出来る気がした。

 

次は茨城へ向かう。

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。