2012.02.15
茨城日記 後編
6日目、まずは早朝から袋田の滝へ行った後、一乗院毘沙門堂へ。
こちらでは独特なおみくじがあって、引くまえに「夢かお金か」のどちらかを選ばないといけないのだけど、ヒデさんはお金だった…。
それから名利酒類株式会社さんを訪問し、続けて陶芸家の福野道隆さんを訪ねた。アトリエがとても山奥にあるという事で、近くのコンビニで合流。山に入るに連れて車がやっと一台通れるか通れないかくらいのすごく細い道になってくる…ぶつけちゃいけない、と思ってノロノロ進む僕を尻目に、慣れているのか、福野さんの赤い車はスピードを緩める事もなく走り抜けていった。
到着すると、まわりを完全に森に囲まれた真ん中にアトリエはあった。
「夜はフクロウの鳴き声しか聞こえませんよ。」との事。
寡黙な雰囲気の福野さん、中で一通り作品を見せてもらい、ヒデさんが一言。
「なんというか、作風を見てると、細かそうな性格ですね?」
そう言われて、苦笑いを浮かべる福野さんはこう返す。
「いやぁ、自分ではかなりだらしないと思ってるんですが…どうなんでしょう。」
僕は毎回思うのだけど、自分でだらしないと言って本当にだらしない人に会った事がない。自分以外に…。そんな事を考えていたら、色の出し方の話の流れで御自身でノートに書かれた釉薬の配合表のようなものをチラッと見せて頂いたのだけど、そのページにはエクセルでつくったのかと思えるほどに定規を使ってきれいに作られた表が。
それを見てヒデさん。
「うわ!やっぱり細かいじゃないですか!けどわかります、僕もそうなんですよ(笑)」
共通の何かを見つけると、人はどこか嬉しくなるのは、よくわかる。
それから続けて陶芸家の大貫博之さんを訪問。
大貫さんは20年前に県の窯業指導所にて陶芸を学ばれたとの事で、その前はグラフィックデザインの広告の仕事をされていたらしく、あまり陶芸家の方には感じない雰囲気をお持ちの方だった。
ヒデさんが話を聞いている間、僕ら工房にあった本棚をチラッと見ていたのだけど、植物の図鑑が沢山並んでいる。それで気付いたのだけど、大貫さんの作品には草木をモチーフにしたものがとても多い。
ヒデさんが、広告デザインの仕事を辞めてこの世界に入られたきっかけを訊いた。
「自分のアイデンティティみたいな仕事をしたかったんです。広告の寿命は短いですから、何か、残るような仕事がしたかったんです。」
残る仕事と聞いて、ホワイトいちごの遠藤さんの事を思い出してしまった。
感覚として誰かの心に残る仕事、作品として世の中にのこっていく仕事。色々あるとは思うのだけど、この言葉は、茨城の旅が終わってもものすごく心に残っている。
最終日、まずは浦里酒造さんを訪問し、漆芸の人間国宝である大西勲さんを訪問。
とても親しみ易い雰囲気の大西さん。手元ではずっと米糊を練っておられたのだけど、「これは普通の飯米ですよ。」との事。
昔ばあちゃんが米糊で手紙などを封していた事を思い出し、懐かしくなった。
ご自宅にお邪魔するなり、「気は遣わないで下さいね、気を遣われるのも嫌ですから(笑)」と優しく言って頂く。この言葉はヒデさんもよく言うなぁ、と思っていると、「僕も同じですのでよくわかります。」とヒデさん。
「人はみな平(たいら)ですからね。」という最後の大西さんの言葉に、出合って早々大西さんの人となりを存分に感じる事が出来た。
そんな大西さんの作品を見せて頂くと、これが手作業で作られたものなのか…と唸ってしまうほどにすごい。当然、ひとつ作るのにそれなりの時間もかかるという。
「沢山作って儲けようと思ったら、こんな事はやれないでしょう。けど、人生は一度っきりですから、よく考えます。」
またもや深い言葉に胸を打たれた僕なのだけど、そう話す大西さんは声も表情もものすごく明るい方。
「よく若いのに言うんです。足し算(塗り)と引き算(研ぎ)が一緒に出来る仕事なんてそうそうあるもんじゃないよって。」
そうお仕事について話される大西さんは、最後に「コツコツやってりゃなんとかなるよ!」と最高の笑顔で話された。
もちろん、この「コツコツ」というのがとても難しい事なのだけど、大西さんの笑顔は、くよくよ小さな事を考えても仕方がない、というような事を言っているようにも僕には見えたのだった。
それからカガミクリスタルさんを訪問して、茨城の旅は終わった。
茨城は農業も盛んで、笠間にみるように陶芸の町もあって、海もあって、ヒデさんの好みで言えばスイーツも抜群に美味しくて…思い返せば色々なものが凝縮された県だった。その中でも、陶芸家の大貫さんの、「残る仕事がしたい。」というのと、最後の大西さんの「人生は一度っきり。」という言葉が胸に残っている。目先の感覚で物事を判断するのでなく、人生という長い目で考えてみる。
これを実践すれば、これまで見過ごして来たようなごく身近な事さえも、全く違ったものに見えるのかも知れない。
次は神奈川へ行く。


