2012.09.10

東京日記中編2

USKコーヒーを出てから次は小笠原小学校へ移動。
体育館で行われていた、東京都指定の無形民俗文化財である「南洋踊り」のレッスンを、その重鎮と言われる大平京子さんと共に見学させて頂く。この踊りは、日本が戦前にサイパンやグァムなどを統治していた時代に小笠原諸島に伝わったのだという。
大平さんは、小笠原の激動の歴史を肌で知る数少ない人との事、ヒデさんも思いを昔に馳せるように、重みのある言葉に耳を傾けていた。

小笠原諸島の旅、3日目。朝7時より港に集合した僕ら。目的地は母島。チャーターしたのはピンクドルフィンという名の、そのまんま外も中もピンク色の船。所要時間も1時間のみ、懸念された船酔いもそのくらいなら大丈夫、と薬を飲んでバッチリ、のはずだった。
けど、…酔った。酔う前に撮った、船頭で気持ち良さそうにするヒデさんの写真がある。僕はこの後、あまり記憶がない。

港に到着した時は、揺れない地面が頬擦りしたくなる程、愛おしく感じた。スタン船長にお礼をひと言、と思い「サ…サンキュ…」と遺言のように呟いた後に返された、苦笑まじりの顔が忘れられない。
そこから母島役場の方の車で移動。皆はそれから母島をまわったのだけど、僕だけ役場の休憩室にてお昼まで休ませて頂いた。そのせいで、母島で何が起こったのかを書く事が出来ない。帰りは、ピンクドルフィンで帰る彼らより一足先に、大型の定期船で帰らせてもらう。酔う事もなく快適だったのだけど、皆のいない1人の旅はやはりどこか寂しく感じた。
 
そして最終日、最後の予定は戦跡ツアー。ご案内頂いたのは田中善八さん。田中さんは、旧日本軍の戦友会の方々からの証言をもとに、豊富な知識を誇る第一人者。これまで何人かの人達から言葉で聞いた、この島が辿って来た壮絶な歴史の痕跡が生々しい形で残っていた。旧日本軍の基地、トンネルの先にある高射砲台、森の中にポツンとある貯水槽など。土にまじって湯呑み茶碗の欠片などもあり、今でも生活臭を感じる事が出来た。

街では沢山の子供達を見かけて、その伸びやかさに元気を貰えたのと同時に、この島で育つという事はどういう事なんだろう…どういう感覚を大人になって持つのだろうと、とても興味深く考えさせられた。通りですれ違う人や、売店で出合う島の人達は、僕ら他所者に対してとても自然だったのが印象深い。パン屋さんへヒデさんと入った時の事。それまで一切ヒデさんに気付いていなかったようなレジの若い女性が、会計後のお釣りをヒデさんに渡した後に、ボソッと「握手して頂けますか?」と、こちらお釣りになります、という感じで呟いた。これにはヒデさんも逆に驚かされたようで、「なんか、いいよな。」と、気持ちよく買い物をさせてくれた事がとても嬉しそうだった。
 
小笠原諸島から戻って2週間程経った5月の下旬、東京の旅は再開した。
江戸切子の根本幸雄さんを訪問。体調を崩されていたという根本さんとヒデさんが対面する。根本さんの目が子供のように輝いていた。
「中田さんに会えると思って、昨夜は眠れずで、寝不足になっちゃった。」
と笑われる。もう76才になられるのだけど、表情からは元気エネルギーが溢れていた。13才からこの世界に入られた根本さん、働いていた工場が倒産したり、その為に幾つかの工場を転々とされた時の事をこう話される。
「始めはタダ働きでした。幾つかの硝子工場を転々としましたが、どこも作業のやり方が違うんです。けど逆にそれで色々な事を覚えて、後からとても役に立ちました。」
話の中から、「魚子(ななこ)」や「矢来」などの模様の名称を教わる。
 
ヒデさんが、「御弟子さんは取られないのですか?」と根本さんに質問。
「若い人をとっても、役に立つ様になるまで5年かかります。その頃辞められるとお手上げです…。」
表具師の前川さんからも同じ話を聞いた事を思い出す。以前は見習いと言えばタダ働きが普通だった、ただ、様々な娯楽を多くの人が享受出来て、若者が選べるほどに職がある現代ではやはりそれは難しいのだろう。
 
ヒデさんも石かけという作業に挑戦。回転する円形の石盤にガラス板を押し当てる。「おぉ…上手上手。」と根本さん。数十分かけて出来上がったものに、どこか不満そうなヒデさん。すると息子の根本達也さんがそれを補整してくれるという。「ちょっとだけ御待ち下さい。」といってから、本当にすぐに戻ってこられた。さっきまで、どこかやはり素人が作った感のあったものが、きちんとした作品に変わっていた。ヒデさん一同「おーすごい!」と驚いたのだけど、「これで食ってますから。」と謙虚に言われた達也さんがとても格好良かった。

東京日記 中編3へつづく
 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。