2013.04.10
岩手日記前編
岩手県。東京から旅の車で6時間と少し…。
沖縄から始まった旅も、えらく北まで来たのだなと、思うと同時に、さて、今回はどんな美味しいものが食べられるのだろうと、1人車中でニヤけてしまった。
翌朝、盛岡駅でヒデさんらと合流。車に乗るなり、ヒデさんがワクワクした様子で話し出す。
「今日のお昼だけど、競争だから。各自、記録を出すつもりで頑張る様に。」
ギクッとした僕…。“今日のお昼”とは、盛岡名物であるわんこそばの東家の事。
月曜にもかかわらず空席待ちで並ぶ店内。事前に予約していた為、すぐに個室に通して頂く。
程なくして店員さんよりルール説明。何でも、お椀に蓋をしない限りはどんどんとそばがよそわれ続けるとの事。
ヒデさんより、「各自最低100杯は行こうよ。」との柔らかい命令が下る。
元々小食のヒデさんはともかくとして、優勝の最有力候補は何と言ってもディレクターの牧。その恵まれた丸い胴体はブヨッとしていて伸縮性もあり、どれだけでもおそばを詰め込めそうだ。ダークホースは「よく食べる大人」として名を馳せるライターの川上さん。最高齢であるカメラマンの高橋さんには「無理しないようにして下さい。」とヒデさんから事前に注意が飛んでいた。
緊張した面持ちでお椀と箸を手にするみんな。そしていざ、スタート。
思ったよりも一杯の量が少なく、「これは結構行けるんじゃないか…」との思いが頭を過る。
ただ、それも50杯を越えた辺りから、少しずつお腹が窮屈になって来て、お互いが無言で顔を見合わせ始める。その後の取材もある為、ヒデさんは早々に御馳走様をし、牧の代わりにカメラを持って撮影を始めた。
同時に、ちょっと挫折しそうになる輩を見つけては、「まだまだだから。まだ全然だから。」と笑いながらも冗談ともつかない言葉でみんなの気を引き締める。
80杯を越えた辺りから、予想に反して川上さんが独走態勢に。優勝候補の牧はペースが途中からガクッと落ちて、ヒデさんのただのいじられ役となっていた。まぁ、それはいつもの事なのだけど。
座った状態で食べるとお腹を圧迫してしまう事に気付いた僕らは、膝立ちで食べると幾分か気が楽になる事に気付く。その姿がレッサーパンダの家族のようで、みんなでわんこそばに挑んでいるという妙な一体感のようなものを感じてしまった。

100杯を越えた辺りで最初に僕、そして高橋さんが脱落し、牧も体格の割には115杯という中途半端な記録を残して姿を消した。そして中田JAPAN(旅メンバーの呼称)の期待を一心に背負ったのはダークホースの川上さん。130杯を越えた辺りで、「ここまで来たら150は行けるよ!そこまでは絶対に行こう!」と楽しそうなヒデさんの声…。
必死の形相で150をクリアした川上さん、これだけでも快挙だ。次々とおそばをよそおうとする店員さんの隙を見て、蓋を手に取ろうとした川上さんにヒデさんが言う。
「ここまで来たらもったいないよ!200杯は行けるよ!気合いだよ気合い!」
既に難を逃れてホッとしていた僕らも、「か、川上さんならやれますよ!」とヒデさんに乗っかる。その時の川上さんが僕を見る目を、僕は今でも忘れない。
結局、なんと川上さんは“気合い”で200杯を達成した。この記録は、年間で数人しか出ないという。店員の人がギャル曽根さんとかを引き合いに出してたくらいなので、相当すごいのだと思う。
食べ過ぎて半ば重い体で向かった次の訪問先は、型染めの蛭子屋 小野染彩所。
店内には、布巾や手拭いなど、色彩豊かな商品の数々が。早速工程の一部を見学させて頂き、沢山の型紙も見せて頂く。
「型紙にすごく興味があるんです。」とヒデさん。型紙の一部を見ながら、盛り上がっている。
鮮やかな色に感嘆の声をあげるヒデさんに、「色は無限ですからね。」と、今回ご案内頂いた小野信太郎さんが言う。
小野さんの話では、古いもので300年ほど前の型紙もあるそうだ。その時代の人が使っていた事に思いを馳せ、何とも言えないロマンを感じている横では、川上さんがベンチに座ってじっと下を向いていた…。

それから次は陶芸家の雪ノ浦裕一さんを訪問。
北海道出身の雪ノ浦さん。何とも、森の温かさに似た雰囲気をお持ちの方。りんごの灰の釉薬をはじめ、土も岩手のものを使われている。
雪ノ浦さんの作品は、意外にもお値段も手頃なのだけど、そこには「お客様には、細く長く付き合ってもらいたいと思ってます。」という思いがある。

雪ノ浦さんが席を外された時、ヒデさんが作品を眺めながら言う。
「うーん…なんか(作品が)温かいんだよね。ここまで作品に人が出るんだなって。」
言われてみると確かに、僕が最初に持った雪ノ浦さんの印象が、そのまま彼の作品にも現れているような気がした。

その夜は奥州市の水沢にある焼肉屋「龍園」で夕食。
ここのお肉(前沢牛)は絶品で、ヒデさんも珍しく美味いを連発していた。
2日目、まずは月の輪酒造店さんを訪問。
時間は9時といつもの旅に比べるとそんなに早くはなかったのだけど、やはり寒かった。ここでは女性杜氏の横沢裕子さんにお話を伺った。
数年前に平均24才で酒造りを始めたという横沢さん、今でも平均は30才と、若い。こちらでは珍しく、雑穀の稗(ひえ)を使用したお酒などもあった。
横沢さんの話を聞くにつれ、ある事に気付く。どうも、こちらでは杜氏(とうじ)の事を、「とじ」と短く発音するようだ。こういう違いに気付くと、どこか嬉しくなる。

岩手日記中編1へ続く