2013.04.10
岩手日記中編1
月の輪酒造店を出た僕らは、金属造形家である「工房ヒロ」の廣瀬愼さんを訪問。廣瀬さん、笑顔が優しい、扱われる鉄とは対照的に温かみのある方。そんな廣瀬さんの言葉にも、やはりそれは表れていた。
「デザインで気をつけているところはありますか?」とヒデさん。
「鉄はどうしても冷たいイメージがありますから、デザインで温かさを出すよう心掛けています。」

廣瀬さんが若い時の話をされる。
「22とか23才の時に盛岡に来たのですが、都会から田舎に来ると、情報が入って来ないんじゃないかと不安になりました。ただ、そんな事はなくて、落ち着いてアンテナを張っていれば情報はきちんと入って来るんですね。」
これにはとても共感させられてしまった。僕自身、熊本のど田舎から東京に出て来ているのだけど、この旅をするようになって気付くのは、記憶に残るような場所やものは東京ではなく地方で出合う事の方が多いのだ。そういうものを作っている人達は、どこにいようと、最先端の情報を持っている、もしくは発信しているのだと思う。
一通りお話を聞いた後、廣瀬さんの鉄器で作る奥さんの手料理を頂ける事に。
廣瀬さん、作品を作る時は試作品を実際に奥さんに使ってもらい、使い易さを確かめてもらうという。
最高に居心地の良いリビングでその手料理を頂いたのだけど、鉄器だからという要素を差し引いても、奥さんの料理はめちゃくちゃ美味しかった。

次の訪問先は指物師である菅原伸一さんを訪問。
菅原さんは、世界遺産である平泉の毛越寺の欄間や木製建具を制作された方だ。
工房には、「木」そのものの香りが漂っていて気持ちが良い。
最近のヒデさんを見ていると、以前よりも質問の数が減ったように思う。勿論彼の知識が増えた事もあるのだろうけど、それより、訪問先の方の話を引出す様に努めているよう見えるのだけど、実際限られた取材時間の中では彼らの伝えたい事を聞き出す事がとても重要である事を考えると、きっとこれもヒデさんが意図しての事なのだと思う。
ヒデさんも組子細工体験をさせて頂ける事に。

菅原さんの言葉や雰囲気からは、とても謙虚な印象と、全く棘のない、柔らかさがある。何より、言葉もしぐさもとても丁寧だ。
「建具にしても指物にしても、最低100年は残るようにと思って作っています。」
この言葉からはどんな作品にも手を抜かないという、相当な覚悟が伺い知れる。ヒデさんが作業をしながら、「この仕事をやる上で大切な事はなですか?」と訊く。
「色々な話をして下さる人が沢山いますから、素直に謙虚にその話を聞けるかだと思います。」
あぁ…世の中こんな方ばかりだったらどんなに平和だろう…などと考えていると、「出来た!」とヒデさんの声が。
地道な作業が大好きなヒデさんの、満面の笑みが印象的だ。

3日目、旅では毎度の事だけど、一日の始まりにはどんなに朝が早くても温泉には入るようにしている。露天風呂へのドアを開けると痺れるような寒さ。温度計はマイナス6℃を指している。ただ、そこには真っ白な銀世界が広がっていて、熊本出身の僕からすると感動的で、あぁ、ここに鹿の親子でも出て来てくれればなぁ…などと思うと同時に、「あ…車って動くのかな…」と不安になってしまった。そう考えるとあまりゆっくりもしておれず、そそくさと上がる事にした。
無事に出発する事が出来た僕ら。まずは酒蔵の南部美人さんを訪ねた。
久慈さんにお話を伺う。
「岩手は四国ほどの大きさでして、北と南では気候も大きく違うんです。ですから酒造好適米も一種類では無理なんです。」
いや、大きいとは思っていたけど、さすがにそこまでとは思ってもいなかった。
こちらのお酒は、国内のみならず、23もの国々へと輸出されているという。
「県内と外では、5割ずつくらいです。ただ、外のうち、10%は海外です。」
そう話す久慈さんだが、外国で販売する事の難しさをこれでもかという程に痛感されているようで、聞いているだけでこちらも途方に暮れて来る。
ただ、こうして美味い日本酒がどんどん海外で評価されるようになると、ヒデさんがよく話すように、日本酒もワインのような位置づけになる日が近い将来、実現するかもしれないなと、熱意のある久慈さんを見て強く思った。

それから僕らは浄法寺へ。浄法寺と言えば、日本一の漆の産地。こちらで漆の塗りと掻(か)きの両方をやられている鈴木健司さんを訪問。
実はヒデさん、以前ここ浄法寺で既に漆掻きのを経験した事がある。漆で作られた器などが好き、といのはわかるけども、掻いた事まである人はなかなかいないだろうと思う…。
この辺りの漆掻きはだいたい6月くらいから、10月頃まで行われるらしく、それ以外の時期は塗りをやられているという。
「半年は山に籠りますから、物作りの時間は半年しかありませんけど自分で育てた物(漆)で作るという嬉しさはあります。あと、掻きをやるようになって初めて、漆の大切さがわかりました。」
平安時代にまで遡ると言われる漆だけど、鈴木さんの言葉からは代々伝わる知恵と自ら培って得た経験が見え隠れする。
「木は7月までは水を吸って成長してるんです。それまでに切ったりすると絶対ダメで、枯れたりするんです。」
漁師さんなどもそうで、エキスパートとはこういう人の事を指すのだと思うけど、カッコいいなと思う。自分の生活に有効に利用出来る知識を持つ事。
ヒデさんはこの旅で得た知識を色々なプロジェクトを通して形に変えつつある。旅の知識を、ただ自分に留めておくのはもったいなさ過ぎるのだ。
岩手日記中編2へつづく