2013.04.10
岩手日記中編3
岩鋳を出た僕らは、この日最後の訪問先である陶芸家の大沢和義さんを訪ねた。
とても落ち着いた口調で話をされる大沢さん。ヒデさんの人となりを探りながら、丁寧に対応されているのがわかる。
大沢さんはユニバーサルデザイン食器(福祉食器)の「てまるプロジェクト」を立ち上げ、障害を持った方や高齢者の方にも扱い易い器の制作をされている。
幾つかの作品を実際に見せて頂く。
器を傾けずともスプーンでスープがすくえるように作られているものなど、何も説明を受けなければ気付けないような細かなところに、気遣いのデザインが隠れている。

使い手の事をとことん意識しているのがわかるのだけど、誰かの気持ちを推し量る事と同じで、ただ思いがあれば出来る事ではないはず。その辺り、ヒデさんと大沢さんの人への接し方には、似ている所があるように思えた。
話は何故かまた、日本酒へと移る…。
大沢さんも大好きなようで、「実は近くにある酒蔵で、うまいのがあるのですが…」とすすめて頂き、気付けば日本酒の瓶が数本並び、もはや酒蔵訪問時のような利き酒の風景が…。
この日最後の訪問先だった事もあってリラックス気味のヒデさん。
日本酒を飲みながら、陶芸を始めとした工芸、食文化などの話でとても盛り上がった。窓の外にはまだ雪の残った風景もあり、より、お酒が美味しそうに思えた。

6日目、まずは早朝より「達谷窟毘沙門堂」を訪問し、それから「名勝“猊鼻渓船下り”」へ。北上川の支流沿いに、高さ数十メートルを越える石灰岩の岸壁がおよそ2kmにわたって続く渓谷を、船で下るのだ。
まだまだ寒い東北なだけに、かなり寒そうだな…と心配していたのだけど、テント付きの船だったので少しだけ安心した。

何よりも船酔いにビビっていた僕なのだけど、浅い川を鳥の鳴き声と船頭さんの案内をゆっくり聞きながら、寒さも忘れて気持ち良く下る事が出来た。
最終目的地へは途中から陸に降りて歩いて行く。
「向かいの壁にある穴、見えますか?」と船頭さん。なんでも、幅10mほどの川を挟んだ向こう側の壁にある穴へ軽石を5回投げるとの事、それぞれに願いを掛けて、入れば叶うのだという。「やろうよ!」と乗り気なヒデさんがまず挑戦。なんと、一発目から入ってしまう…。
ただ、結構難しく、ヒデさんは2回成功。少し納得が行かないらしい。そして僕も挑戦。最後の1回で何とか成功し、ちょっとだけホッとした…。そして最後はディレクターの大島。4回失敗し、残すは最後の一投。
「さぁ大島の願いは叶うか!」というヒデさんの応援と共に振りかぶった大島、何とも不格好なフォームで投げた軽石は意外にも美しい軌道を描いて穴のど真ん中に吸い込まれた!…と思ったら、コロッと弾かれて出て来た。勢い(願い)が強過ぎて、出て来た…。
爆笑するヒデさんと僕(と船頭さん)。帰りの船でヒデさんが思い出したように訊く。「で、願いって何だったの?」
すると大島が俯きながら、ポツリと答えた。
「結婚です…。」

その後、国指定重要文化財である「南部曲がり家千葉家」や、「続き石」に「五百羅漢」、「福泉寺」から「姥捨て山」という具合に立て続けに立ち寄ってから、わさび農家の佐藤昭悦さんを訪問。昭和53年にわさび栽培を始められたという佐藤さん、寒い時はマイナス20℃くらいまで気温は下がるらしいのだけど、品質としては静岡、長野に並ぶという。
「ここは湧き水地区と呼ばれるくらいに水が豊富なんです。」との事なのだけど、静岡で訪問したわさび農家さんも「わさび栽培は水が命」という事を話されていたのを思い出す。若い人のわさび離れなどの問題も気にされていて、わさび団子など、様々な加工品も作られている。

佐藤さん曰く、「やっぱり良い品質のものを作らないといけませんよね。けど、一方で量も大事なんです。幾ら良いものを作っても、量がない事にはどうにもなりません。」
わさび田には決まって川のせせらぎと同じ水の流れる音があるのだけど、緑と土とその音は、最高のセットだと思う。

7日目、まずはおさんぽジャージー三谷牧場さんを訪問。岩手県の北部に位置する奥中山高原、まわりにはまだ雪が結構残っていた。
ここ三谷牧場は、真冬を除いた5月から11月にかけて、牛たちを自然放牧している。約20ヘクタールの山林や牧草地を20頭のジャージー牛が自由に散歩をしながら草を食べている。三谷剛史さんにお話を伺った。
ここは特に寒そうですね?とヒデさんが訊く。
「そうですね。ただ、水も空気も良いですし牛の事を考えると、人間さえ我慢すればすごく良い所なんです。」
こちらの代表的な商品にヨーグルトがあるのだけど、牛が食べる草などが季節で変わる為、味も変化してくるという。
僕らもヨーグルト、牛乳、チーズと試食させて頂いたのだけど、何より個人的にはチーズが美味しかった。

それから鳥越竹細工の柴田恵さんを訪問し、この日最後の訪問先である陶芸家の泉田之也さんを訪問。
泉田さん、25才までサラリーマンをやられていたとの事、住宅などの工事現場の監督をやられていたという。
「その時の経験が、今の作陶におけるアイデア、発想に役立っていると思います。」
とても居心地の良いギャラリー。ゆっくりと見て回るヒデさんが、奥の一角で立ち止まった。
「すり鉢ですか?」
すると泉田さん、「実はうちのヒット商品なんです…。」との事。
泉田さんは、考え方がとてもシンプルな方。
ヒデさんの「サラリーマン辞めて、良かったですか?」という問いかけに対する答えが印象的だ。
「はい。やはり好きな事をやると、物事がうまく運びだすというか。それはすごく感じます。」
誰にでも同じようには出来ないかもだけど、これはきっと真実だと思う。

そして岩手の旅第一弾の最終日、まずは中尊寺へ。ここは平泉の文化遺産のひとつで、世界遺産に登録されている。朝は7時過ぎに伺ったのだけど、気温は3℃。風が全くなかったのだけど、空気がとても冷えきっていて、早足で歩く時に頬を撫でる空気がとても気持ち良かった。
そして最後に高村記念館へ寄ってから終了。
まだ前半が終わっただけだけど、岩手の印象はとにかく……広かった。
後半戦へと続く。
岩手日記中編4へつづく