2013.04.10
岩手日記中編5
次に訪問したのは岩泉純木家具有限会社の工藤宏太さん。
この純木家具のコンセプトは、大きい木は大きいままにというのがあるらしい。
木に関してのお話から、工藤さんの優しさを感じる事が出来る。
「木の中には、300年近く生きるのもあるでしょう。それらの木は扱う側、売る側が気をつけないと、簡単に捨てられる様な家具になったらやるせないですよね。」
材木置き場を案内する工藤さんは、まるで飼っている動物を僕らに紹介してくれるような、そんな感じに見えた。

工房では、職人さん達の作業の音と、木の温かい香りが感じられた。
工藤さんは、穴が空いた木や、普通なら捨てられる様な木でも、「その欠点を活かしたものを作ります。」と話される。
ヒデさんが、「ご自分の仕事に満足される事はあるんですか?」と訊ねる。
「出来上がったものを見て、この木はこうなる以外に生きる道はなかったんだろうな、と思えた時は最高ですね。」
そう言って工藤さんが顔をほころばせる。この人に命を委ねる事が出来る木たちは、なんて幸せだろうかと思えた。

2日目最後の訪問先は、日本三大鍾乳洞のひとつである龍泉洞。
車を降りると、立地が山間にある為か風が冷たく、とにかく寒い…。
中に入ると、徐々に湿気が増して来て、足下を照らす灯りだけを頼りに先へ進む。当たり前だが、雰囲気はまさに洞窟だ。
ここ、わかっているだけでも3,000m程奥行きがあるらしく、その全容は5,000mにも達すると推測されているとの事。広過ぎてあまり想像が出来ないまま、水の滴る洞窟を先へと進む。
洞内には地底湖があって、その推進も100m近くあるのだけど、何よりも透明度がものすごく、なんとも神秘的だった。

3日目、朝は3時半起きで宮古市はわかめ漁の船に乗せて頂いた。
三陸のわかめは全国一の収穫量を誇るとの事、特徴は肉厚で弾力があるところだという。皆さん、通常は夜中の1時頃に沖に出て、品質保持の関係で海水の温度が低いうちにカマでワカメを引き上げるという。
僕らが起きた3時半には、もう皆さん海の上だった訳だ。
僕らはまず、重茂漁業協同組合の北田さんに船に乗せて頂き、漁師さんの船のそばまで移動する。僕は無口に、一体沖に出るとはどのくらい沖なのか、海は荒れてないのか、つまり船酔いはどうなのか、というのをものすごく気にしていたのだけど、幸いにも、「漁場は港からすぐです。今日は波も穏やかですよ。」との事で一安心。
漁師さんの船に横付けする頃には、海から日が昇り始めていた。

お仕事中の漁師さんにお話を聞かせて頂く。この日は夜中の12時から海に出ていたそうで、既にこの時点で4時間半程収穫作業をされているたとの事。
「ワカメも光合成しますから、その前に引き上げるんです。そしてこの後獲ったワカメを港に運んでボイルします。5時くらいまでは海で作業して、それからはまた陸での作業があります。」
僕はこの時点で少し気分が優れなくなって来ていたのだけど、北田さんが「遠くを見てるといいです。」とアドバイスを下さり、話は耳で聞きながら遠くに姿を現し出した太陽を見つめていた。きれいだ…と強引に感動してみようと試みたら幾分か良くなった気がした。

ヒデさんもワカメの引き上げを体験させて頂く事に。
引き上げるワカメを見ながら「ワカメって、茶色なんですね…?」とヒデさんが質問。
「そうなんです。ただ、ボイルをすると緑になるんです。」
おぉ…確かに。ヒデさんがそう質問するまでは茶色である事を何とも思わなかったのが少し悔しかった。

それから次は草木染めの草紫堂さんを訪問。社長の藤田さんにお話を伺う。
とても落ち着いた印象の、言葉をしっかりと選んで話される藤田さん。
この草木染めは鎌倉時代からこの地方に伝わったとされる程に古い歴史があるのだけど、藤田さんの思い入れが、その静かな言葉からでもひしひしと伝わって来る。
「僕は好きな事を仕事でやっていますから、それを絶やしたくない思いがあります。その為には時代が変わっても続いていかないといけませんから、着物を着る人が何を求めているかに対して、常にアンテナは張っていたいです。」
2階に上がると、数人の女性が制服姿で黙々と作業をされていた。静かだけども、皆さんからは集中力をもの凄く感じたのだけど、それはここ東北ではあちこちで感じられる事でもある。

そして次の訪問先は、南部鉄器の鈴木盛久工房に熊谷志衣子さんを訪ねた。
熊谷さん、実はヒデさんの友人のお母さんなのだという。店内にある幾つもの作品を、ゆっくりと眺めて回りながら、「なんか、沢山南部鉄器も見て来たけど、少し変わった感じがするよね。」とヒデさん。

裏手にある工房へご案内頂く。明治18年築との事で、とても雰囲気を感じる。
中では息子さん含め、3人の若い職人さんが静かに作業をされていた。若さを感じつつも、その表情には職人としての厳しさも伺える。

そんな彼らを見つめる熊谷さんは、表情、声、雰囲気ととても柔らかい方で、この方が作る鉄器には、目に見えない何かが作用して鉄の冷たさが中和されるのでは…と思わされてしまった。

それからこの日は最後に、訪問先の何軒かから薦められた酒造であるわしの尾さんを訪問してから終了。
4日目、まずは川村酒造店さんを訪問。社長の川村さんにお話を伺う。
ヒデさんが、岩手の印象を話し始める。
「人もどこか優しいだけじゃなくて、リズムがゆっくりというか。」
それに対して川村さん、「岩手は、120〜130万の人たちが本州で一番大きな県に散らばってるんです。やはりのんびりしてますね。」と言って笑われる。
酒造りに関しては、「南部杜氏の地元ですから、目は厳しいですね。」と本場ならではの難しさも語って頂けた。
そんな川村さんが造るお酒はあくまで食中酒だという。
「うちは“何か食べたくなる”ようなお酒をずっと造りたいと思っています。」
この旅で出合う人達皆がそうだけど、それぞれの仕事への思いだけは、何度聞いても飽きる事はない。

岩手日記後編へつづく