2011.07.28

静岡日記 前編

群馬の時と同様に、東京を車で出発。
東名高速を西へ向かう。そろそろ富士山が右手に……見えない。
今日は生憎の雨、予報では台風が近づいて来ているとの事だった。
「滞在中、ずっと雨だと嫌ですね。」というと、「大丈夫だろ。」とヒデさん。
晴れ男というのもあるのか、ポジティブだ。

 

最初の訪問先はわさびの生産者である浅田正孝さん
伊豆の天城は江戸の昔からわさびの生産地として有名だったそう。
雨に降られてはいたのだけど、瑞々しく光る緑と川のせせらぎのある、素晴らしい環境だ。わさびの栽培は水が命との事で、泥水にとても弱いらしい。水温も13℃くらいが適しているらしく、それより冷た過ぎてもいけない事から、冬場はあまり成長しないという。
浅田さんのわさび田に流れる水は飲めるほどにキレイだった。最後に自家製のわさび味噌を出して頂いたのだけど、これがとても美味しくてビックリした。普段わさびを食べないと思っていたヒデさんも、口にした途端「うまっ!」と口にし、笑顔に。
わさびにはどうやら色々な食べ方があるようだ。

 

 

次は静岡市へ。
静岡の中部は「駿河」と呼ばれていた地域。こちらへは竹細工の匠である「竹工房はなぶさの黒田英一」さんを訪ねた。
こちらの竹細工の特徴は、細い竹ひごで作られるとても優しい感じのもの。
竹細工と言えばヒデさんも大分の旅で経験済みなのだけど、こちらでは竹ひごを作る所なども体験させて頂く。
スーッ、スーッと滑らかに竹を引っ張って削っていく黒田さん。一見とても簡単そうなのだけど、挑戦したヒデさんはなんとなく手こずっている。
黒田さんは、「竹は1ヶ月で背が高く伸びます。けど木であれば何年も待たなければならないですよね。」と竹を使うメリットを語られる。こちらの工房では竹細工教室も開いておられて、もう十数年通っておられる方もいるらしい。
こういうお仕事を見ていると、自分のイメージしたものを形にする事ってどれほど楽しいのだろうと考えてしまう。

 

 

その後は「指物家具の吉蔵」さんに寄ってから初日は終了。
宿へ向かう途中も雨風がすごく、翌日の天気がとても心配だった。

 

朝起きると、外から小鳥がチュンチュンと鳴く声が。
「あ、晴れてる…」
カーテンをめくると青空が広がっていて、眠気を感じつつも幸せな気分になる。
6時頃宿を出て、まずは久能山東照宮へ。
ナビが、ゴールまで200mだと教えてくれる。前方の山の上にあるのが目的地だとわかる。
それにしても、高い所にあるなぁ…と、階段を想像して少し不安になる。ただ、車を降りるとなんとも涼しい海風が。
階段のキツさも忘れてある程度登った所で海を眺める。絶景。
太平洋には、昨日までの嵐が嘘のような青空が広がっていた。海も、昨日の濁りからのギャップ効果か、まるで地中海かと思えるほどに青い。

嵐の後の海は特に美しく見えるというけども、まさにそんな景色に癒された。

 

 

次に向かったのは静岡市、「駿河下駄工房の佐野成三郎」さんを訪問。
この駿河塗下駄は色彩の美しさが特徴で、1つの下駄を作るのに1年かかる物もあるという。佐野さんはもう50年以上もこのお仕事をされているのだけど、その手から作られる下駄の繊細さと美しさには「おぉ」と唸らされる。
見せて頂いたものに、「卵殻張」という技法で作られたものがある。
細かく割った卵の殻を、ひとつひとつ丁寧に下駄に張り付ける、という途方に暮れてしまいそうな作業だ。
ヒデさんが、「下駄って、ピッタリのサイズで履くものなんですか?」と聞くと、「1cmくらい踵を出して履くくらいが粋じゃないでしょうか。」と教えてくれた。

 

カッコいいとか、洒落ているではなくて、「粋」なのだな、と言葉の意味を考えていると、横から何度となく「ぐぅ~」という音が…。目が合ったライターの川上さん、「腹減った…」と呟きながらメモ帳にペンを走らせていた。

 

 

それから初亀醸造さん、杉井酒造さんをまわった僕らは「茶師の前田文男」さんを訪問。
静岡と言えばお茶、そしてこの茶師というのは茶葉の品種や産地、品質の善し悪しを見分ける「利き茶」をする人の事。事前に資料などで調べた所、前田さんは茶師の中でも3人しかいないという最上級の十段の取得者という事もあり、かなり緊張していたのだけど、お会いした前田さんは優しさと気遣いの塊のような人だった。

 

最近はお茶の世界に興味津々のヒデさん。お茶に関しての質問が飛び続ける。
茶葉の栽培では霜が一番の敵らしく、霜が降りると葉が赤くなり、飲めた物じゃなくなるらしい。
前田さんはお茶のブレンドに対して、「1+1が2じゃない。」と言うのだけど、その言葉には茶葉ひとつひとつの奥深さが感じられる。

 

そんな前田さん曰く、お茶は70℃のお湯でいれるのが一番良いという。そして茶葉の甘味を出す為には、ぬるめのお湯でいれるのがいいらしい。
ヒデさんが、「やっぱり自分がブレンドしたお茶が一番ですか?」と質問すると、前田さんはしばしの沈黙の後、こう話された。
「自分が作るお茶が一番とはなかなか言えないですね…。多分、そう言う様になったら終わりな気がして。」
まだお話を聞き始めて30分も経っていなかったのだけど、前田さんの人間性、なぜ、茶師十段たるかが言葉の端々から伝わって来る。
ヒデさんも利き茶に挑戦。産地の異なる茶葉を一つ一つ嗅いだりするのだけど、なかなか繊細な鼻を持ってるようだ。

 

 

そこから前田さんと一緒に「お茶農家の望月庄司」さんを訪問。
寡黙な雰囲気だけれど、時折見せる笑顔から優しさが滲みでている望月さん。こちらでは茶畑を見せて頂いた。
そこは「天空の茶畑」と呼ばれる、自然に囲まれた素晴らしい場所だった。
標高も500mあり、この真夏でも信じられない程に涼しい。お茶やわさびの栽培にはとても適しているとの事。
望月さん曰く、「真夏は下(街)には降りれません(笑)」
日本にもこんな場所があるんだなーと、どこか嬉しくなるような、そんな場所だった。

 

 

前田さんが話された、お茶の敵である霜の話で思う。
お米や野菜などの栽培でも同じなのだけど、こういうお話を聞く度に、農業とは良くも悪くも結局は自然に左右されてしまう。そうであれば、自ずと手段は一つしかなくて、如何に自然を理解して、自然から土や水を拝借する気持ちでうまく付き合っていくか、という事に尽きるのだ。

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。