2011.07.28
静岡日記 後編
静岡の6日目、まずは青島酒造さんへ。
こちらの青島さん、30才くらいまでは外資系の証券会社勤務でニューヨークにいたとの事、お父さんが体調を崩された事も重なったのだけど、外国にいる事で日本の土地に根付いた文化の良さを再確認し、生きる道というものを相当考えた結果、戻って来られたという。
なんとなく、ヒデさんがよく話す事と大きく通じる部分がある。やはり外国に行って、珍しくて新しい物や習慣に触れる事で、改めて「自分のまわりには何があったんだろう?」という事を考えさせられるかもしれない。
ただ、それに気付き、仕事や生活を変えるまで至るにはそれなりの覚悟と勇気が必要なのは間違いない。僕もそうだけど、大半の人は気付くだけで終わるのだろう。
それから焼津市にある磯自慢酒造さんへ。
こちらの寺岡さん、1830年創業のこの酒造の八代目。ユーモアのある話に引き込まれてしまう。
「酒造りに色気のある酒じゃないとダメです。説明を受けてる人に、飲みたいなぁと思わせないといけない。そんな色気です。」
お話のみならず、品の良いお酒のボトルにも引き込まれる。
ただ、運転の僕は飲めない…。
6年ほど商社勤めをされていたという寺岡さんが戻って来られてから、蔵の規模も徐々に拡大してきたとの事。
「色々な人の言う事も聞きましたけど、聞いたままやる事はありませんでした。自分の中の筋は一本通していたいって思ってましたから。」
優しく、笑顔を交えてそう話される寺岡さんの言葉にはズシリとした重みを感じた。
この日、最後の訪問地である「高田農園」さんへ行く車中で、久しぶりに会った大島ディレクターが茶髪になっている事が話題になる。
「なんで急にその色にしたの?」と聞くと、「いえ、今度バラエティの番組をやる事になったので、少し自分も雰囲気を明るくした方がいいかなと思いまして…。」と大島。
頑張り方を間違えてる気もしたのだけど、真面目な奴だなぁ、と感心していると、後ろからヒデさんが、「チャラいな。」と一言。それを聞いて「戻します…」と大島。素直な奴だ。
7日目。伊東の宿を出た僕らは、静岡を東から西へ200km横断して浜松市へ。
佐鳴湖にて「天然うなぎ漁をされている田邊陽三」さんを訪ねる。
こちらでは、毎年10cm前後の天然うなぎの稚魚の放流に始まり、成長したうなぎを4月半ばから11月半ばにかけてとっている。捕り方は、狭い所が大好きなうなぎの特性を利用して、1mほどの竹筒を湖に沈めて捕るというもの。
うなぎの産卵は海で行われ、生息は湾や川や湖という、複雑な生態をしているらしい。その上つい最近までは産卵場所さえハッキリとはわかっていなかったとの事で、これほどまで食文化に根付いているのに、と意外に思える。
佐鳴湖に到着して、早速、うなぎ漁を見せてもらう事に。田邊さん、ヒデさん、大島を乗せたボートが先に出発する。この日合流した渡辺プロデューサーと僕とでもう一隻のボートを出して頂き、心地よい風に吹かれながら追いかける。「バード」というあだ名を持つ程に鳥が大好きな渡辺さんが首をキョロキョロさせながら鳥を探し始める。僕は、子供時代にいとこのおじさんのボートで川に遊びに連れて行ってもらっていた事を思い出したりした。
漁を体験させて頂いた後、七輪で焼く蒲焼きを御馳走になる。やはり七輪で焼くと味も違います、と田邊さん。
それ以上に、うなぎ自体が美味しい。ヒデさんをはじめ僕、大島、渡辺プロデューサーで次々と焼き上がるうなぎを頂く。うなぎの乗った皿が次々と台に置かれていく。そろそろお腹もいっぱい…と言っても、「どうぞどうぞ、遠慮しないで下さい。」と田邊さんは焼き続ける。
いつも何故か食べ物を訪問する時に参加することが多い渡辺プロデューサーは、「なかなかこんな風に美味しいうなぎをたらふく食べられる事なんてないんだよ?」とパクパク食べる。
僕も旅に感謝しながら口いっぱいにうなぎを頬張った。
それから袋井市にある「クラウンメロンの生産者である井口克彦」さんを訪問。
メロンと言えば杉山フルーツさんで頂いたメロンの生ジュースが美味しかったのだけど、ふとメロンソーダは好きだけどメロン自体は苦手である事を忘れている事に気がついた。
もしかしたら、苦手だった日本酒がこの旅で飲めるようになったのと同じで、今はメロンも美味しく感じるのかもしれない。そんな期待が胸をよぎった。
お話を伺った後、そのメロンを試食させて頂く事に。まずはヒデさんが食べる。
三日月型に切られたメロンにかぶりついたヒデさん、「ジュルル!」と音を立てる。見ているだけで唾をゴクッと飲み込んでしまうほどに美味しそうに見える。
「これはウマいよ、食べてみたら?」といわれ、いざ試食。
口に含んで一噛みすると、口中にジュースがしみ出してきた。う、うまい…。
食わず嫌いで17才になるまでイチゴを食べた事がなく、初めて食べた時のあの感動と、それまでの17年間の損失を思って酷く落ち込んだ事を思い出し、僕は何才からメロンを食べられるようになってたのかと意味もなく考える。
うなぎで破裂しそうになっていた筈の僕と渡辺さんのお腹に、大皿に盛られたメロンがどんどん入っていく。止まらない。幸せ…。
そんな僕らを、「…にしてもよく食うなぁ。」と、ほのぼの見ているヒデさん。この人の仕事で来なければ一生メロンを嫌いなままで終わったかもしれないと、少しだけ感謝した。
それから「二橋染工場」さんを訪問。
浜松は全国でも有数の浴衣の産地。その産地を支える伝統的な染めの技術が「浜松注染(ちゅうせん)染め」というもの。染料を柄の部分に注ぐ事により、表裏が同じ柄に染まり、独特のにじみやぼかしも出せるという多彩な染色が特徴だという。
ここでは若い女性の職人さんと、60才を優に超えておられるような大ベテランとも言える職人さんがほぼ無言で共同作業をしている姿が印象的だった。
汗を拭いながら真剣な眼差しを見せる若い女性と、どこかゆったりとした、余裕を感じさせる所作と何が起きても動じないような表情の大ベテラン。
匠の技を若者が見て、学び、身につける。その姿を匠は無言で見守る。これこそがまさに、伝統が受け継がれる「現場」だと思えた。
最後に神沢川酒造さんへ行って、静岡の旅は終わった。
静岡は本当に横に長かった。そして海があり、そう遠く離れずに富士の麓もある。わずか数十キロの移動で昼間の気候がこうも変わるかと驚かされた。
次はいよいよヒデさんの地元、山梨へ行く。
昔のヒデさんを知る誰かに会えるだろうか…そんな何かを期待したい。



