2011.09.08

千葉日記 前編

旅は千葉へ来た。あまり、地方へ行くという感じがしない。
最初の訪問先である「友禅染めの中澤英高さん」の住む松戸市まで、ほんの40分程で到着…。「旅というより、ちょっと出て来た感じですね…」と助手席の牧(※同行している映像カメラマン)。
応接間に入り、お話を伺う。一通りの説明を聞いた後、「ずっと部屋で座ってのお仕事、大変じゃないですか?」とヒデさんが聞く。
「こうした仕事で一番大切にしているのは、心の安定です。家族と仲良くするとか、僕らは集中力が勝負なのですが、作業しているとどうしても邪念や煩悩も入ってくるんです。するとそれがどうも筆先に出てしまって…」
と中澤さんは苦笑いしながら話される。
中澤さんのデザインはどこかモダンさも感じるのだけど、旅行先で間違って降りてしまった駅の、ふとした道に咲いていた花をイメージして創作されたりするらしい。とても魅力的な話だと思った。
そんな中澤さん、「着物の文化が現代に正しく受け継がれていない気がしています。」と、とても複雑な表情をされていたのが心に残った。

 

 

それから市川市へ移動。「木象嵌作家の戸島甲喜さん」を訪ねた。
戸島さんは会った瞬間にその芯の強さがわかるような方。それは壁を感じさせない笑顔と、作品を語られる時のこちらが緊張するほどの真剣な表情から、否応無しに伝わってきた。

 

 

工房に入ると、どこか表現し難い暖かみを感じる。
雰囲気は、山梨の高原などにあるカフェのような、まるで外は森だったっけ?という錯覚を覚えるくらい居心地の良い場所。
木象嵌とは、木の板を彫って、そこに異なる木を象(かたど)り、嵌めこんで絵などを表現する木工技術の事なのだけど、この戸島さんの作品、実物をみると、言葉を失うほど素晴らしい。
ヒデさんもビックリした様子で、「木を沢山使ったホテルなんかにこの作品があったら、かっこいいなぁ」とアイデアがどんどん湧きはじめた。
ヒデさんの、「作品作りにテーマはあるんですか?」との質問に対して、「“生命の誕生と命”をテーマに作っています。見に来たお客さんが、作品を見て胸の辺りで何かが動くようなものです。」と戸島さん。笑った時とは逆の、鋭い視線で一点を見つめながら、頭で数秒じっくり考え、丁寧な言葉で話される。
そんな戸島さんの作品には球体が多く描かれているのだけど、戸島さん曰く、この球体は「見えない空気のようなもの」だという。一見、まるで絵と見紛うような作品を、僕は生き物のように感じた。
暖かみを感じた理由は、それなのかもしれない。工房を埋め尽くす作品たちそれぞれからは、生き物だけが発するような、「暖かみ」が出ているのかもしれない。会話の中でふと話された戸島さんの言葉がある。
「骨董品が好きです。色々な人が大事にしてきたんだな、というのが見えますから。」
これを聞いて、なんとなく、確信できた気がした。

 

 

2日目、まずは酒造の寺田本家さんへ。
こちら、2010年度より全て無農薬のお米で酒造りをされているらしく、「契約農家さんのおかげです。」と代表の寺田さん。
こちらでは非常に珍しい精米歩合が100%のお酒もあり、さすがのヒデさんも「90%とかは聞いた事ありましたけど、100%はないですね」と驚いていた。
寺田さんからは、お米を非常に大切にされている事と酒造りに対する情熱の大きさがヒシヒシと伝わって来た。その情熱はお酒という枠も越えて、「マイグルト」というお米の発酵食品まで作られている事からもわかる。
利き酒の間、運転でお酒の飲めない僕は御茶とマイグルトで喉を潤した。

 

 

それから八千代市へ移動、「梨農家の櫻井正浩さん」を訪問。
梨と言えばヒデさんの大、大、大好物で、千葉は梨の生産量日本一、今回の旅でヒデさんが最も楽しみにしている訪問先だろう。
直売所に到着して、すぐに梨園へ移動。ただでさえ細かった道が、どんどんと狭くなっていく。先導してくれる櫻井さんの軽トラの小回りが羨ましく目に映る。
175cmほどのヒデさんが、多少腰を屈めて歩くほどの木に無数の梨がなっている。僕はあまり考えた事もなかったのだけど、当然梨にも種類がある。その中でも豊水(ほうすい)というのは、お米でいうコシヒカリのようなもので、他にも幸水(こうすい)や新高(にいたか)など様々あるとの事。
ヒデさんがおいしい梨作りのポイントを訊ねる。
「天候や技術もやっぱり大事なのですが、何よりも大事なのは収穫のタイミングです。」と櫻井さん。他の農家さん同様に、「ほとんど休みもないですから(笑)」と笑って話されるのだけど、「その代わり、手をかければかける程返って来ますからね。」と、この仕事の醍醐味を自然に口にされた。
直売所へ戻って、豊水と幸水を試食させて頂く。両方を、じっくりと味わいながら何かを考えているヒデさん。僕は取り敢えず手前にあったのを食べてみる。そして奥の方へ。どちらも同じ様に美味い。
横で、カメラで両手の塞がっている牧が虚ろな目で被写体のヒデさんではなく梨を見つめている。梨を口まで持っていって食べさせる。
豊水も幸水も僕には甲乙つけ難かったのだけど、結果、ヒデさんは幸水、僕と牧は豊水が好きという結果になった。

 

 

それから「陶芸家の美崎光邦さん」を訪ねに八街市(やちまたし)へ。
迎えてくれた美崎さんは、笑った時の目がとても優しく印象的な方で、ヒデさんの訪問を本当に楽しみにしておられたようだった。
整理された工房へ通されると、「実は、中田さんが来られるという事で10年ぶりくらいに片付けをしたんです。」との事。
美崎さんのお話は、作陶に対する心だったり、作品に残る作家の色だったりと、作家独特の視点からのお話で興味深かった。
「僕は多分、人の持っている線みたいなものって、どれだけ年を重ねても残っているものだと思います。だから初めて作った作品と最近作った作品とでも、基本的な線は変わっていないんです。」
果たしてその“線”の意味するものは人の美意識や美的感覚だろうか、とも考えてみた。ヒデさんも話を聞きながら、美崎さんの作品をジッと見つめている。結局自分で納得出来る答えは見つからなかったのだけど、今後の課題として意識したいと心に思った。

 

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。