2013.07.20

山形日記中編1

それから米鶴酒造さんを訪問した後、米沢牛の達人と呼ばれる畜産農家の伊藤精司さんを訪ねた。伊藤さんは息子さんと共に100頭の米沢牛を肥育されていて、これまでにも何度も受賞牛を育てている“達人”だ。
牛舎へ入ると、真ん中の通路を挟むように左右には様々なサイズの牛たちが。いつも思うのだけど、牛はどこか人なつこい。ここの牛たちも、写真を撮るのに必死になっている僕の腕を長い舌で舐めようとしてくる。馬よりも人なつこいと思うのは僕だけか…。
 
この日はご自宅に招いて頂いて、実際にお肉を試食させて頂いた。丁度お昼時を過ぎた頃で、僕と牧はお腹の音で会話が出来るほどに空腹だった。すき焼きとして頂いたお肉はやはり極上で、頭の中では「仕事仕事…」と撮影やメモを忘れないように心がけながらも、もはや御飯茶碗と箸を手放さずにはいられなかった。
「口にベタベタ残る脂じゃなくて、スッキリした脂を目指してます。それを基準に考えて、牛の餌なども考えています。」
こう話す伊藤さんだけども、そのお肉はまさに脂っこさを感じさせない、とてもヘルシーなお肉だった。
それにしても、沢山のお肉を食べさせて頂いて、とても贅沢な取材となった。
 

 
この日最後の訪問先は置賜紬の新田源太郎さんを訪問。
新田さん、まだ33才(当時)とお若いのだけど、深い知識に裏付けされた自信から来るハッキリとした気持ちの良い話し方で、とても頼りがいのありそうな方。あぁ、この足下がしっかりした雰囲気は自分にはないなぁ…と羨ましくなってしまった…。
 

 
1つ1つの作業現場を丁寧に案内して頂く。ここでも、主役は女性の職人さんだ。皆さん、黙々と繊細な手元の作業をこなされている。
ヒデさんも機織りを体験。女性の職人さんにコツを学びながら、楽しい時間はあっという間に過ぎた。
 

 
4日目、まずは早朝から法泉寺、上杉家御廟とまわり、タケダワイナリーへ。
こちらは創業100年近い歴史を持つ、国産ワインでもとても有名な蔵元との事。
岸平典子さんにご案内頂く。蔵から通りを挟んだ向かいにある傾斜に畑がある。ヒデさんと岸平さんはそこを歩きながら、国産と国外のワインの話で盛り上がる。共通の話題があると人はすぐに打ち解けるものなのだろうけど、話のネタがお酒となると、ヒデさんもとても楽しそう。
 

 
岸平さん曰く、辛口か甘口のワインと言われれば、日本人は辛口が好みらしい。日本酒でも淡麗辛口という言葉が流行ったように、潜在的にそういう好みがあるのかもしれない。
また、ワイン造りにおいてどういう土地が有利か、というヒデさんの問いに対し、「北海道は新しいワイナリーが増えています。山形もそうなのですが、ワイン造りからすればとても魅力的な土地です。」との事。街並やその地に根付く文化など以外に、自分の仕事目線で見る土地の見方があるのかととても新鮮に思えた。
 
そして最後に、こちらのワインを試飲させて頂いたヒデさんと牧。僕は運転なので、香りだけを楽しませてもらう。イタリアとフランスのワインの違いってなんだろうという話になり、どちらに近いものを目指されていますか?とヒデさんが訊く。
「食べて飲んで欲しい、そういう意味ではイタリアの考え方に近いのかもしれません。」
満足そうにワインを口に運びながら頷くヒデさんだった。
 

 
それから長井市にある長井紬の長岡正幸さんを訪問してから、村山市にある高木酒造さんを訪問。こちらの十四代というお酒、日本酒通の間ではまぼろしとまで言われる程の人気を誇る。こちらの蔵と既に深いお付き合いのあるヒデさん、蔵にも何度も訪れた事があったのだけど、今回は旅の一環として、15代目の高木顕統さんにゆっくりとご案内頂いた。
 
高木さんの話が面白い。
「醸造は微生物が相手ですから、数学のようには行きません。化学だけでは醸造は解明出来ないんじゃないかなって思います。そして微生物って、見てるんですよ。それを扱う人の優しさとか、気概とかそういう部分を。その声が聞こえるようにならないと、本物じゃないのかも知れません。」
そう話す高木さんの視線は普段と違ってとても鋭くて、蔵に入ると全神経を尖らせているのだろうと思わされた。
 
酒造りなどの醸造は、「微生物との共同作業」という話はよく聞くのだけど、「微生物の声を聞きたい」という発想は、初めて耳にしたもので印象的だった。
「酒造りには本当に色んなやり方があって、とても深いですね…」とヒデさんが言うと、「ただ、他と違うやり方をすればその分うまくなるとは限らないんですね。そこが面白さでもあるのかも知れません。」と高木さん。
ヒデさんも現役時代、ボールを受けに下手に動き回るよりは、動かないままの方がいい事もあるという話をよくしていたのを思い出す。分野は違っても、共有出来るものは沢山あるのだ。
 

 
山形日記中編2へ続く
 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。