2011.09.08

千葉日記 中編2

それから千葉市へ移動して、「陶芸家の神谷紀雄さん」を訪問。
普通の住宅街から少し入り、さっきまでの幹線道路や住宅街が嘘みたいな森のような道の先に、神谷さんのご自宅兼工房があった。
丁度お昼時だった事もあり、お寿司を出して頂いた僕ら。神谷さんとヒデさんは共通の知人の話などで食べるよりも話し、僕と牧はここぞとばかりに話を聞くよりも食べた。
神谷さんは作品作りについて話される。
「3つ、とても大事な事があります。まずは現代性、そして永遠に瑞々しさのある作品かどうか、芸術とは古くなってはいけないですから。そして最後は、どこにあっても神谷の作品だ、というのがわからないといけない。」
とても優しく、柔らかい口調で話をして下さっていた神谷さんも、この言葉には力が入っていたように思う。
それからヒデさんも作陶体験。久々という事もあり、なかなかろくろ回しがうまくいかない。向かいに座って見守っていた神谷さんが、優しく、そして真剣に助言して下さる。
「腕が持ってかれないように脇を固める事が大事です。途中でやめないように、そうそう。」
横で見ていて、なにか人生の講義を受けているようなそんな気持ちにさせられた。
終わってから、ものすごくお酒が好きという神谷さんがとても楽しそうに言われた言葉が心に残った。
「朝は作陶、昼はテニス、そして夜は吟醸(お酒)、人生楽しく!ですね(笑)」

 

 

それから有機農業の先駆者的存在と言われる「たがやす倶楽部」の斉藤完一さんを訪問。
斉藤さんは独自配合の完熟堆肥を使って土作りをされていて、「昔に帰りたいくらいです。今のトラクターは大き過ぎて、土に負担ですから…。」との言葉から、斉藤さんの人となりや思いやりが感じられる。
ヒデさんと、ご自宅から近くの畑までゆっくりと歩きながら、農業はもちろんの事、子供達が口にする食べ物の作り方や食育にまで話が飛ぶ。そんな斉藤さんは食育の一貫で、毎週東京の大手スーパーの店頭に立っているのだという。ただ作るだけではない、そんな所に斉藤さんのすごさを垣間見る。
「食べ物は、その土からとれるだけ穫ればいいんです。足りなければ、仲間を増やせばいいですから。」
食べ物を大切にする、という観点から言えばとても自然な事なのだけど、世の中の現実は少し違うのかもしれない…と考えさせられた。

 

 

5日目、まずは「ブラウンズフィールド」へ。料理研究家の中島デコさんと、ご主人でフォトジャーナリストとして幅広く活動されているエバレット・ブラウンさんが、環境に配慮した循環型の生活を実践しながら運営されていて、ツリーハウスやカフェ、ゲストハウスなど様々な施設があり、田んぼや畑、古民家など昔の日本がそのままあるような、そんな場所。
風の涼しい朝に僕らを迎えてくれたおふたりは、笑顔と佇まいが本当に自然そのもので、特にデコさん、僕には笑顔以外の彼女の顔が全く想像出来なかったほど。

 

最初は山梨辺りで住む場所を探されていたとの事だけど、「なにか、不動産で土地を探すというのも違うなと思って、人とのご縁が一番大事ですから。」と流暢で美しい日本語を話されるエバレットさん。
その言葉からは、初めて感じる、僕なんかでは計り知れない程の思慮深さを感じた。すべて、しっかり考えられた末の言葉、というくらいしか表現方法がないのだけど…。
田んぼの方では、各地方や海外から来ているという若者たちが農作業をしていて、お互いを呼び合う声が聞こえて来る。
「なんかこういう場所っていいね。自分の村というか、山梨でこういうのが出来たらいいな。」
とヒデさん。以前からそういう事は話していたのだけど、実際にそれが具現化しているブラウンズフィールドをみて、実現可能と感じたのか、とても嬉しそうだった。

 

 

それから稲花酒造さんへ移動。
12代目蔵元の秋場貴子さん(13代目は息子の康佑さん)、とても明るく、笑顔が絶えず、気持ちの良い雰囲気をお持ちの方。
「父が早くに亡くなったので、半ば無理矢理に農大に行かされました。」と明るく話されるのだけど、この業界で女性という事もあって、相当に苦労されたであろう事は想像に難くない。「息子が出来てからは、おんぶして酒造りしていました(笑)」と、全てを笑い話のように話されるのだけど、僕は改めて女性の強さを感じさせられて、完全に感服させられていた。

 

 

それから次は「梨農家の秋山孝さん」を訪問。
梨園にて、梨が並んだテーブルを囲んで話を聞かせて頂く。最高に気持ちが良い。
テーブルに並んだ梨をそれぞれ試食させて頂く。するとヒデさんが、「これなんですか?」と不思議そうに聞いた。
「それは秋麗(しゅうれい)です。収量も少ないですし、実もそんなに大きくならないので、あまり普及してないんです。」と秋山さん。ヒデさんもまたよく違いに気付いたものだな、と感心させられたのだけど、もしかしたらこの人の舌は、僕が思うよりもずっと繊細なのかも知れない。
こちらに来てずっと話を伺っていて、梨よりも何よりも気になったのが秋山さんご夫婦の仲の良さだ。美味しい梨作りについての話の最後に、秋山さんが幸せそうに話された。
「技術的な事はもちろん大事ですけど、夫婦仲良く笑い合って作った梨には、そういう“良い気”みたいなのが入ってるんじゃないかって思っています。」
梨も生き物。そういうのはきっと、あると思う。

 

 

その後で木戸泉酒造さんに寄り、この日最後の訪問先である岩瀬酒造さんへ。
こちらの杜氏の横坂さん、なんとあの能登四天王の1人である農口杜氏の門下生として山廃を学ばれたとの事。なんでも、どうしても農口さんに教わりたくて、石川県にあるご自宅まで行って直談判されたそう。
横坂さん、そういったバックグランドもあるのだけど、酒造りに対してとにかく熱い。話を聞きながら、漠然と、ここまで熱くなれるものを持っているのが羨ましいと思った。
そしてその話を、自信満々で終えたテストの答え合わせをするような表情で聞いているヒデさん。旅が始まった頃は理解をしようと必死だったはずで、こんな余裕はなかったのにな、と現実的な時間の経過を感じてしまった。

 

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。