2011.09.08

千葉日記 後編

6日目、まずは「菅原工芸硝子」さんへ。
専務の菅原裕輔さんにご案内頂く。工房へ行くと、なんとなく、女性が多い。
「この業界では、世界的に見ても非常に珍しいと思いますが、うちは女性が多いんです。」との事。無駄話をする間もなく、担当の仕事をテキパキとこなす職人の方達。額から汗を滴らせていた男性に話を聞いてみた。
「1日4リットルくらい水飲みますけど、それでも家に帰ると3kgくらい体重落ちてます。」
1日の代謝だけ考えると、プロスポーツ選手よりも激しいに違いない…。

 

 

それから「エコファームアサノの浅野悦男さん」を訪ねる。
浅野さん、17才からこの場所で農業をやっているのだけど、その風貌はまさに、アメリカの延々と続く真っ直ぐな道路をハーレーにまたがって走っていそうな方。ただやはり、他の農業家同様に笑顔が優しさに溢れている人だった。
収穫する野菜全ては、浅野さんが見込んだシェフの料理店にのみ卸しているのだけど、そんな取引先の、「とりたての野菜をすぐその場で調理してみたい」という要望から、敷地内にある元は納屋だった土壁の建物に、小さな食堂のようなテストキッチンを設置されている。
「私はお客さんにもシェフにもうちの野菜がうまいとは言いません。その為にテストキッチンを作りました。来て、勝手に料理して食べてもらえばいいです。」僕はその何気ないキッチンがとても魅力的で、そこで料理をしている事を想像するだけで楽しくなれる気がした。きっと、畑に囲まれた環境がそう感じさせたのだと思う。

 

 

浅野さんがこれまでの人生を振り返るように色々な話をして下さった。その中で、何度も出て来た言葉がある。人との出会い、助言、勇気、素直でいる事の大切さなど。この日僕が見た浅野さんは、野菜作りに関してはもはや仙人のような風格があったのだけど、それはきっと上記した言葉を素直に受け入れ、考える努力を惜しまなかった結果でしかないのだと教えられたようだった。

 

 

それから午後は「陶芸家の上瀧勝治さん」、「陶芸家の和田的さん」をそれぞれ訪問し、最後に「嶋野木工所」を訪ねた。
こちらは建具、家具、組子の製作をされている。工房の隣のご自宅では、普段見過ごしてしまうようなドアにも目が止まってしまう。

 

 

嶋野浩司さんにお話を伺う。
ヒデさんが「建具は長野で行きました。」というと、すぐに「え?横田さんですか?」と嶋野さん。聞けば、長野で訪問した「栄建具工芸の横田さん」は組子細工の世界では大重鎮なのだそう。やはり1ヶ所まわるだけで得る情報では全然足りないのだな、と再認識させられる。
ヒデさんが工房で体験をしている間、ベテランの宮大工さんに少し話を聞いてみた。
「職人の仕事は本当に地味です。そこで刃を研いでいる者がいるでしょう。彼は今日休みですが、もう午前からやってます。それで食べてますからね。」
その職人が刃をしっかり見つめて研ぐ姿はとてもカッコよくて、宮大工さんはどこか誇らしげだった。

 

 

7日目、まずは早朝から成田山新勝寺へ。こちらはとても広いので、ヒデさんと大島、高橋さんの撮影組は先に正面で車を降りた。僕とライターの川上さんは裏の駐車場の方へ回る。車を降りて、探せど探せどヒデさん達がどこにいるのか全く見当がつかない…。
「だけど天気も良いし、このまま散歩でもいいっすね。男2人ですけど。」などとのんきにウロウロしていたら、100m程先に見える大本堂の付近から高橋さんがこちらに向って手を振っていた。この時、人が手を振る行為がとても人間らしく思えて、なんとなく心がほっこりして、駆け出したい気持ちにさせられた。

 

それから「落花生問屋のフクヤ商店」へ。エコファームアサノで初めて知ったのだけど、落花生は土の中で実る。

 

 

実際に落花生農家を訪れて、畑を見せて頂いた後で地元特有だという茹で落花生を食べる。テーブルにこんもり出して頂いたのだけど、僕も川上さんも止まらない。それからフクヤ商店に戻り、今度は商品の試食させて頂く…。それでも止まらないほど美味しい落花生だった。

 

 

それから柏駅の近くにある三日月氷菓子店へ寄り、松戸市の「漆芸家の松本達弥さん」を訪問。
ご自宅マンションの一室には、松本さんと奥さんの作業台が2つ並んでいた。とても柔らかい雰囲気の奥さんと穏やかな雰囲気の松本さんが並んでお仕事される姿を想像して、とても羨ましく思えた。
ヒデさんは石川を旅した辺りから特に漆に関して興味を持っていて、この日も松本さんの作品やお話に興味津々。ずっと温めているアイデアもあるようで、積極的に松本さんに意見を求めていた。
そんな松本さん、作家としての今後をこう語られた。
「生きている間にどんな作品が残せるか、自分が死んだ後で、人が“これ誰が作ったんだ!?”というような作品を2つ、3つ残せればいいなと思っています。」
生きている今から自分の価値を「死後」に見出そうとする松本さんは、その穏やかな外見からは想像も出来ないほどに大きな世界観を持っているに違いない。

 

 

それから「木象嵌作家の内山春雄さん」を訪問してこの日は終了。
そしていよいよ最終日、まずは梨農家である「与佐ヱ門の田中総吉さん」を訪問。
田中さんは元々、虫も農業も梨も嫌いだったという。製薬会社に勤め、仕事で他の農家さんをまわった時、自分の家の仕事を何も知らない事に気付かされたとのだと話してくれた。
木漏れ日のそそぐ梨園で食べさせて頂いたもぎ立ての梨は最高に美味しかった。
野菜畑同様に土作りがとても大事との事だけど、住宅街が近い事もあってなかなか難しいという。「20年やってきて、完成ではないですが、ようやくいいのが出来始めました。」と嬉しそうに語られた。

 

 

それからちば醤油さん、東薫酒造と寄り、最後の千葉県最後の訪問先である「梨農家の鈴木梨園 鈴木博文さん」を訪ねた。
こちらでは、皮が剥いてあるだけでカットされていない冷えた梨を出して頂いた。かぶりつくと、9割は果汁なんじゃないかというくらいにジューシーで、その上歯ごたえもじゅうぶん。見た目とは違って大食い、フルーツは特に大好きという川上さんは3玉ほど丸々食べていた。

 

 

鈴木さんとヒデさん、梨に限らず桃など他のフルーツにまで話が及ぶ。ヒデさんは確かに食べれないものも多い、けど味に対してはしっかりとした自分基準を持っているのだと思う。それは味に限らず彼の思想のようなものなのだろうけど、きっと基準がなければ、何事も推し量る事は出来ないのだと思う。

 

次は新潟へ行く。

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。