1999.11.01
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この日は、午後からの練習だったのだが、雨のために屋内での練習になった。
場所は、普段練習しているグラウンドから車で2分くらい、歩いても5分から10分もあれば着くとても近い場所。
到着したときにはすでに、バレーチームが練習をしていて俺達は隅の方でミニゲームやボール回しといった、場所をとらない練習をした。
普段ではなんでもないこの練習風景が、何故かこの日に限っては異様なモノになっていた。それは、何よりもTVカメラの多さ。23日の試合のために来ている、日本からのクルーだった。今週に入って早々から、23日にあるベネチア戦のために、次々に日本からの報道陣がペルージャ入りしているのだった。
俺は、この件について、普段仲良くしているマスコミ関係者にも怒った。23日の試合が注目されるのは、ベネチアには名波がいて、この試合がセリエAでの、初の日本人対決だからということだった。
日本で盛り上がる分にはなんにも気にはしない。しかし、そのお祭り気分をこちらにまで持ちこんできて欲しくなかった。
こちらにしたら、この試合は、前節のアウェーの試合に負けて、絶対に落としてはならない大事な一戦であるというだけで、他にはなんの意味もなさない。
これだけの報道陣が、普段からグラウンドに来ていて同じ事をしていたのならば、何も文句は言うまい。しかし、このように初の日本人対決という、その試合だけにお祭り気分でくる。それがどういう行為か分かっているのだろうか?
イタリアの報道陣にも、この試合についてはいろいろと聞かれた。
試合後に、試合の優秀選手に選ばれて、トロフィーをもらいに行ったときのことだ。
いくつか質問を受けた中で、セリエAの中での初の日本人対決だったんだけど、どうでしたか? みたいな質問だったと思う。俺は、そう言う質問を受けるというのは、まだ日本人が認められていないようで頭に来る、というようなことを言った。
だって、セリエAの中にはたくさんの外国人がいる。もちろん、まだ日本人は現在2人しかいないし、過去を含めても3人しかいないかもしれない。
だけども、そういう質問を受けるっていうことは、日本人がまだ珍しがられている。要は、まだ認められていないような気がしたんだ。
だから、1年間自分がやってきたことが、まだこの国では認められてないような気がして、そう言ったんだけど、どう思うかな?
ともかく、日本の報道陣にもイタリアの報道陣にも、日本人だからとか、そんな小さな事が珍しがられ、大袈裟に取りざたされるようなことが、早くなくなることを願う!!
10月23日 第7節 VENEZIA戦
前日、チームメイトの誰かが言っていた、明日は雨が降ると……。
朝起きると、確かに天気は良くなかったが、雨は降っていなかった。俺は、このまま雨が降らないことを願った、が試合の開始と同時に大雨が降ってきた。
試合相手がペルージャよりも明らかに強いと思われる場合は、雨が降った方が均衡した試合がやりやすい(勝つチャンスが増える)。
しかし、それは逆に自分の力も出にくくなると言うこと。相手がペルージャと同じくらいと思われる場合は、やはり天気が良い方がやり易い。
この日の相手はベネチア。しかもこちらのホーム。そうなると、どちらかというとこちらの方が有利なのである。
どうして有利かというと、昨年もそうだったが今年はより一層ホームチームが強い、という結果がでているのである。たとえ、ミラン、インテル、ラツィオ、ユーベ……などの強いといわれるチームであっても、アウェーで勝つことは至難の業なのである。
このホームとアウェーの試合がどう違うかというのは、未だに分からない。
ともかく、この日は酷い雨が降っていた。しかも、試合開始時は、前も見えないほどのすごい雨!! もともと軟らかいペルージャのグラウンドは、水たまりが出来、非常に滑りやすい最悪のグラウンド状況になった。こうなっては、ドリブルは勿論のこと、まともなパス交換さえもできない。攻撃は結局、単調なFWへの放り込みになってしまう。そして、FWに大きな選手がいないペルージャは、相手に引かれてしまってはなかなか良い攻めが出来ない。
逆にベネチアは、FWにマニエロという大きな選手がいて、しかもペルージャが全体的に高い守備を敷いているので速攻をかけやすい状態にあった。だから、ペルージャの方が攻めているように見えたと思うけど、チャンス自体はベネチアの方が多かったように思う。ただ、ベネチアも守備に人数をさいてしまってなかなか攻撃まであがる選手が少なかったのが助かった。
結局、こういったグラウンドの悪い試合では、FKやPKといったセットプレーでの得点が多くなってくる。ベネチアの1点目は、まさにそのPK。
その日ゴールを守っていたパゴットも良い反応をしたのだが、弾いた場所が悪かった。これによりベネチア先制。
その後、前半は天気、グラウンド状況共に酷くてこれ以上試合が動くことはなかった。
前半が終わり控え室に引き上げるときに思った、後半はグラウンドも良いのでもう少しチャンスが出来るんじゃないか、と……。
後半に入り、雨も弱まりグラウンド状況も前半よりはよかったので、思った通りに前半以上の攻撃が出来た。試合自体は、ベネチアが時折攻撃を仕掛けるが、ほとんどはペルージャのペース。
そしてあれは確か、後半の15分くらいだろうか。俺がボールを受け右に流れながらドリブルをしていると、まずはアモルーゾが左斜め前方に走っていくのが見えた。
その後、BAが右に流れていくのも見え、俺が右にドリブルをしているのでみんなBAにボールを出すと思うだろうと思い、迷わずアモルーゾめがけてパスを出した。そのボールは自分のイメージ通りにアモルーゾの前へ……。キーパーが出てきていたので、アモルーゾが軌道を変えるだけでゴールが出来た。俺とアモルーゾのイメージがピッタリと合った瞬間だった。アモルーゾの足が短かったら入らなかったんだろうな、なんて思いながらも、アモルーゾが移籍してきて初めて得点が出来たことを喜んだ。
ペルージャ自体もこの得点によりリラックスできたのか、それまで以上にボールが回るようになった。
MELLIもアモルーゾに触発されるように非常によい動きで、チャンスを作った。その内の一つが得点に繋がった。左サイドでドリブルをしながら粘りセンターリング、少し右に流れたところで俺が追いついた。その時、キーパーが右サイドに移動することが予想され、ゴールの左サイドにはディフェンスと近くにアモルーゾが見えた。
そこで考えたのは、まずはキーパーを外してシュートを打つこと、要は左サイドに打つこと。そして、後は相手のディフェンスが上手くクリアーが出来なくて直接入るか、アモルーゾが詰めてくれることを願うのみ。後は、強いシュートを打つこと!!
上手く行くこともあるモンだな~。その通りに入ったよ。もうビックリ!! これで、2-1の勝ち越しに成功。
その後は、こちらも相手にも多少のチャンスがあったが(特に最後のキーパーのキックミスには参ったよ)、そのまま終了。
この雨の中先制をされて、それで逆転勝ち。これはチームにとって非常に大きな1勝になった。
後は、みんなが聞きたいと思う名波についても少し……。
俺は、名波がこちらに来てから一度も彼の試合を見るチャンスがなかった。だから、どんなプレーをしているのかまったく分からなかった。
試合前に少し話をして言葉のことを聞いたら、普段の生活にはまだ多少の支障はあるが、グラウンドの上ではそれほど問題はない、と言っていた。これは、本当に大事なことだ。俺も感じたが、グラウンドの上で自分の主張が出来ないのは、本当に大変な事だ。
そして試合が始まった。あいにくの雨で技術的に普段の力がお互いでない状況だったが、それでもイタリアの激しい当たりには馴れてきた様子がうかがえた。イタリアでやっていくには、これが一番大事な部分だと思う。いくら技術があっても、それが出せなければしょうがない。
技術的な部分では、雨の中で普段と同じにプレーが出来ないとはいえ、やはり左足のレベルはセリエAの中でも高いレベルにあると思った。試合終了前に出したマニエロへのパスにはビックリした。マニエロが外してくれて俺達は助かったが……。
俺が思うに、今からの名波に必要なのは、結果。要は他の選手からの絶対的な信頼。
これは非常に難しくて、ちょっとやそっと良いプレーをしただけでは、簡単には認めてくれない。
ここで言う信頼とは、自分が欲しいときにどれだけボールをもらえるか、と言うこと。俺も昨年1年間やったが、自分が欲しいときにボールをもらえないことが何度あったか……。今年は、昨年よりもだいぶもらえるようにはなったが……。
ともかく、この事は少しずつ少しずつ積み上げて行くしかない!! 頑張って欲しいモノだ!!
そうだ、この間のコッパ・イタリアでFKから得点を入れたんだ。おめでとう、名波!!
(おまけ)
このベネチアの試合で名波に会うまで、彼とは会うことはもちろんTELで話をしたこともなかった。何故かというと、名波のTELナンバーを知らなかったから。アイツには教えておいたんだけどな……と思って会ったときに聞いた。そしたら、何回かTELをくれたそうなんだけど、留守電だったらしい。って事で試合後には無事TELナンバーを聞いた。
今度一緒にVENEZIAにあるCASINOでも行こうッと!!
10月27日 第2試合(コッパ・イタリア)TERNANA戦(ホーム)
この試合は、ホームでしかも前回のアウェーでの試合に2-1で勝っていることもあって、スターティングには普段のスターティングの半分の選手しか名前を並べなかった。俺もその出ない方に含まれてベンチ入りだったのだが、俺はこれまでこのペルージャのスタジアムで試合をやる時にベンチにいたことがないので、試合までの過ごし方やアップのタイミングなどがよく分からなくて、普段試合に出るよりも緊張した(笑)。
試合が始まり、ペルージャがボールを多く支配するのだが、最後のフィニッシュまでにはなかなか行かない。
そして、OLIVEから相手のテルナーナはセットプレーからの得点が上手いんだよ、なんて聞いたその時、CKから相手に得点を許してしまった。
前半は、この後もペルージャのペースで進むが、やはり決定機が作れないまま終了。
後半に入り、ベンチのみんなにW-Up(体をほぐす)が命じられる。特に俺とMELLIに……。
そして、後半10分くらい、やっと出番が回ってきた。やっぱりベンチで見ているよりも、試合に出る方が良いよな。っと入った早々からファールを受けた。相手は俺にマンマークを付けてきた。その後、MELLIやダイーノも入ってペルージャが攻めたてるが、なかなかゴールを割れない。もちろんこのまま0-1で終わっても、アウェーでの得点は2倍とされるために4-3でペルージャが勝つ。
しかし、ホームで相手はセリエB、しかもUNBURIAダービーとあっては負けられない。そうした思いが通じたのか、後半もロスタイムに入っただろうか、俺のクロスを相手がクリアー、それをBAが拾ってロングシュート。これがきれいに決まり、そのまま試合終了。
通算3-2(アウェー得点倍計算をすると4-2)での勝利。次の試合、フィオレンティーナ戦に駒を進めた。
10月31日 第8節 LECCE戦
前日にあったタイ-カザフスタン戦が1-4でカザフスタンが勝ったために、6日のカザフスタン戦に日本へ帰ることが決まっていた。
そうなると、同日11月6日にホームである対BARI戦には出られないことになる。ということで、このレッチェ戦はどうしても勝っておきたい試合だった。レッチェはこれまで、ホームの試合では2勝1分けとペルージャと同じくホームの試合には滅法強いチーム。その上、ラパイッチとテデスコが怪我のためにいない。でも、そんなことは言っていられなかった!!
試合開始から、相手の激しいプレッシャーがペルージャに襲いかかる。相手は、高い位置でのプレッシャーから良い攻撃をどんどん繰り出していた。俺は試合前にMELLIとAMORUSOに、相手は高い位置からプレッシャーをかけてくるからディフェンスラインの後ろにスペースが出来る、そこに1タッチか2タッチでパスを出したいから、早めに動いてくれるように言っておいた。しかし、この2トップでなかなか試合をやったことがないからかもしれないが、俺と3人の呼吸がなかなか合わない。しかも、FWラインとDFラインの距離が長いために相手にそこをつかれる、という一番いけないパターンになってしまった。前半は結局、お互いに決定機を決められずに、0-0のまま後半へ。
ホームで勝たなければならないと言うプレッシャーからか、レッチェがより攻撃的に動き始める。それは逆に言うと、こちらの攻撃がし易くなると言うこと。試合後にこれを書いているんだけど、ハッキリ言ってこの試合のことはそんなに覚えていないので、話を少し飛ばすけどごめんね。
お互い多少のチャンスがあったが0-0のまま、やっとペルージャに決定的なチャンスが回ってきた。左サイドでのMELLIとのワンツーからセンタリング。それをOLIVEが落ち着いてゴール。待望の得点が入った。
MELLIからのパスは少し強くて、走り始めるときにラインの外に出るかな?と思ったけど、ひたすら走った。そして、センタリングをあげるときには絶対にでていない確信があったが、そこまで一生懸命走ったために気が付いたときには目の前に看板が……。おおっと、バタンッ!! それを蹴り倒したのと同時にゴール前を見たら、OLIVEがしっかりとゴールを決めていた。これで1-0。
その後もすぐに、誰か(MELLIかな)のパスを今度はシュート。コースが狭かったこともあって、キーパーに阻まれた。
後半もロスタイムに入り(6、7分あったでしょう?)、相手の攻勢が続く。しかし、それをマッザァンティーニがことごとくセーブ。
試合終了。昨期は、アウェー最終戦にて初勝利を納めたが、今期は4試合目にしてアウェーの勝利を得られた。
これはチームにとって非常に大きな事である。やはり上位進出を狙うならば、必ずアウェーゲームを勝っていかなければならないし(ホームは勿論のこと)、そのためには出来るだけ苦手意識を無くさなければならない。そして、それを無くすためにはともかく結果しかない!!
次は、バリとのホームゲーム。俺はもちろん日本でのカザフスタン戦に参加するためにいないが、チームメイトが必ず勝ってくれることを信じて、自分も日本で良い結果を残せるよう……!! カザフスタン戦が終わって1時間後にペルージャのバリ戦か。見られると良いのだけれども……。
(前回のMailより)
前回のMailに書いた、写真を勝手に撮る事についてたくさんの反響があった。
分かってくれる方が沢山いたので嬉しかったのだが、その一方で、なんで話しかけた人に英語やイタリア語で答えるの、なんて言う人がいた。しかも、日本人を馬鹿にしているのか、とか、人種差別をしているのか、自分が少し言葉を喋れるからっていい気になるな、なんて言う意見もいくつかあった。
ハッキリ言わせてもらう。きちんとした状況も知らないでこういう勝手なことを言うヤツが一番嫌いだ!! 俺のMailをきちんと読んでくれていないのか知らないけど、前回のMailにも、最初アシスタントが言って注意したけどまったく聞かなかった事とか、勝手に写真を撮って、その後話しかけてきた、と書いてあるでしょう? 今まで何回も何回も何回も何回も、そういう輩にHPをみてくれているみんなには、しっかりと話をして、お願いしてきたつもりだけど、それだけじゃ無力なんだろう。とにかく人の写真を勝手に撮る人は後をたたないし、止めてほしいと懇願しても、止めてくれない人が多いんだ。俺だって、そんな中でどういった対応をしたら、一番勝手に写真を撮られない方法かを考えて、そういうことをしているんだ。
言葉が伝わるというのは、こっちの言いたいことが理解されると言うことだと思う。日本語を使っても、理解してくれないのであればそれは通じないのと一緒。
しかもよく考えてみてくれ。勝手に写真を撮り始めたはよいが、それが俺じゃなくて、ただの似ている人だったらどうするんだ? すいません、間違えましたですますのか? 芸能人だから、サッカー選手だから、と言う理由で、本人の気持ちも状況も考えず、勝手に写真を撮ってよい理由にはならないと思う。
あと多かった意見が、もし一言写真を撮っても良いか聞いたら撮ってもらえるのか?というモノ。
答えは、その時の状況次第。
俺はハッキリ言って、写真を撮られるのがとにかく好きじゃない。
だから、状況と、自分の気分次第かな……。ただのわがままって思う人もいるだろうけど、俺はサッカー選手である前に一人の人間なんだ。人の価値観も様々なように、人が嫌悪を感じる対象も、人によって様々だと思う。そこを分かって欲しい。
俺の仕事は、今は、サッカーで結果を残すこと。それ以上のことを求められても、俺には出来ない。俺にしてみれば、それは結局俺を一人の人間としてみてくれてないということだ。友達にもなかなかなれないんだろうな(なりたくないよ、なんて声が聞こえてきそうだけど……)。
まあ、またまた少々きついことを書いたけど、少しずつ分かってくれる人が増えることを願う。
では、次は日本で会いましょう!!