2010.06.29

HIDE’S REPORT Vol.3 「デンマーク戦後」

デンマーク戦後

試合後、インタビュールームですれ違った本田選手に「おめでとう!」と声をかけると、彼はニッコリ笑って「まだまだですよ」と短く答えた。そう思えているうちは期待できる。僕は彼の言葉が頼もしかったし、とても嬉しく思った。

今日のデンマーク戦、日本代表は僕が見たいと思っていた試合、面白いと思える試合を見せてくれた。これまでの2戦で僕が物足りないと思っていた部分、“相手に得点を取られない為の引いたサッカーではなく、勝つために自分達のサッカーをやって人数をかけて攻める気持ち”、の姿勢が伝わってきた。
大会前の試合で4連敗し、なかなか点を取ることができなかった日本。しかしチームはW杯が始まってからのこの2週間という短期間で驚くほど成長している。それもすべて初戦のカメルーン戦に勝利したことが大きいと思う。しかしながら、カメルーン戦は勝利という素晴らしい結果を手にしたが、極端に守備的な内容はあまり褒められたものではなかった。とはいうものの、この勝利によりチームが劇的に変わっていくことになった。チーム内に余裕をもたらし、選手に自信を与えた。その結果、第2戦目のオランダ戦でも、対等の戦いをすることが出来、結果負けてしまったが、安定ある守備を確立し始め、特に後半は攻撃の匂いを感じさせた。ただ、守備重視で相手の攻撃を受けてからのリアクションサッカーに対しては依然、疑問が残っていた。

僕は今日の3戦目、引き分け以上で決勝トーナメント進出が決まるこの試合で、もし日本がこれまでの2試合のようにディフェンシブなサッカーをするようなら、危ないと思っていた。デンマークはそれで守りきれるほど甘い相手ではないし、なにより僕は勝つ為に自ら攻めに転じる日本を見たかった。ただ守るだけの日本代表では、今大会ではそれなりの結果を出せるかもしれないが、長い目で見たときに日本のサッカーの未来につながっていかないのではないのだろうか……。そう思っていた。

今日の序盤、日本代表は緊張しているように見えた。前回オランダ戦では前半素晴らしい守備の連係を見せていたが、今日はデンマークのスピーディなパス回し、サイドからの崩しに右往左往していた。何度か危険な場面もあったが、今日の日本にはツキもあった。キーパーのナイスセーブがあったり、相手が外してくれたり。ワールドカップで勝つためにはこういう幸運も必要だ。

そのピンチをしのいだ後、日本の動きはよくなっていった。そうして前半17分。本田選手の素晴らしいFKが決まったのだ。
今回、公式球に指定されているボール「ジャブラニ」は、無回転シュートには向いているが、カーブはかかりにくいという。あまり使いこなせている選手がいないのか、今大会のW杯ではここまでFKからの直接ゴールは韓国の1本しかない。そんななかで本田選手が放ったシュートは、見事だった。そしてその1点が日本を“呪縛”から解き放ったような気がした。

そこからの日本は見違えるような動きを見せた。これまで見られなかった縦パスやダイレクトパス、2列目からの飛び出しも次々に出てきた。これこそが僕が見たかった日本らしい攻撃だった。1点を奪ってから守りに入るのではなく、攻め続け、その姿勢が2点目を生みだした。

1点目の本田選手のFKは本当に素晴らしかったが、個人的には2点目の遠藤選手のFKのほうが印象深かった。僕はあの場面、瞬間的に「あ、ここはヤット(遠藤選手)が蹴るな」と思った。それは本田選手が1点目を決めたことで、GKは彼に決められたところを警戒するだろうから、遠藤選手がその逆を付いてカーブをかけて行くのではないか、と思ったからだ。果たして、その予感は的中した。さらに遠藤選手はカーブがかかりにくいと言われる「ジャブラニ」をきっちりと曲げてゴールを決めたのだ。これには世界中がビックリしていると思う。

このあと日本が有利になった時点で僕が恐れていたのは、退場者やPKが出やすくなることだった。日本はクリアしたあともディフェンス陣の押し上げがないため、どうしてもペナルティエリア付近での攻防が多くなる。さらに1次リーグの3戦目、引き分け以上で勝ちぬける日本が有利になった時点で、レフェリーとしてはどうしても日本への審判が厳しくなる。これは今後にむけての課題だが、このあとまだまだ勝ち進んでいくためには、こういったレフェリーの心理なども把握していくことが必要になるだろう。

案の定、日本はPKを与えGKの川島選手がいったんは止めたものの、トマソンに押し込まれ2対1になった。しかし、この日の日本は今までと違い、ここで引き分け以上で逃げ切る為に守るのではなく、ここからさらに攻撃を繰り返した。これが本当に大事な一歩だったし、次につながる一歩ではないかと思う。
3点目のゴールは、本田選手のプレーの幅の広さを見せたものだった。ゴール前で自分のシュートにこだわることなく、マークの外れた岡崎選手にパスを出した彼の冷静なプレーによって、日本のW杯史上最多得点となる3点目を生みだした。ゴール後の選手たちの顔を見ると、いまのチームの状態がすごくいいことが伝わってきて、こちらまで楽しい気持ちにさせられた。。

ルクテンブルグからホテルのあるヨハネスブルグまでは車で約2時間半。行きは遠くてうんざりしたが、帰りはとても気分が軽かった。W杯に入り1試合1試合着実な成長を遂げている日本代表。今日の試合でも大きなステップアップを見せてもらった。この調子だと次の試合も非常に期待が出来そうだ。