2011.07.14
群馬日記 中編
梨木牧場を出てから高崎市へ。
2日目最後の訪問先は染め職人、「藍田染工の藍田正雄」さん。
僕らが伺ったこの日は、ちょうど今年の伝統工芸展に出品される予定の着物が出来上がったばかりだった。
伊勢の型紙を使って染める江戸小紋という技法なのだけど、驚く程に模様がきめ細かい。
伊勢型紙と言えば三重での体験作業で、ヒデさんが2時間もハマっていたものだったので、当然話も弾んでいた。
3日目の朝は6時出発。
まずは「世良田東照宮」に行ってから高崎だるまの「だるまのふるさと大門屋」さんへ。
全国生産の大多数を占めるという高崎だるま。選挙だるまのほとんどもこちらのものだと言う。
店舗の奥に入ると広い工房に赤いだるまがリンゴ飴のように棒に刺さって並んでいる。中には黄色いものや黒いものもある。
4代目の中田純一さんは手書きで目、鼻、口、眉と描かれるのだけど、そのスピードからは想像出来ない程に仕上がりは左右対称だ。
ヒデさんも挑戦。恐る恐るゆっくりとだけど、そこそこに上手い。
最後に、左右に交通安全と願い事を書いて、下の部分には僕ら旅チームの愛称である「NAKATA JAPAN」の文字が入った。
途中から合流していたライターの川上さんと、「なんか、結束力を感じますねぇ。」と感慨深く話す。
もう2年以上一緒に旅をしている僕らも、そこそこに良いチームになりつつあるのを感じた。
次はとても火花が大きいと言われる線香花火を作る、「やまと花火の齋藤公子」さんを訪ねた。
事前に電話で話した時から、初対面とは思えないほど明るく話して下さったので、とても会うのが楽しみだった。
到着すると、30年の歳月をかけられたという火薬の調合をされている最中だった。
数分してから現れた齋藤さんは、37度近い酷暑の中、風で火薬が舞わないように冷房も使えない環境で、相当な神経戦とも言えるであろう調合作業の後だっただけに、少しだけお疲れのようだった。
雑談から着物の話題へと飛び、ヒデさんがもう何度も通っている京都の志村ふくみさんの話になった時、齋藤さんの表情が、まるで一気に花が開いたようにパァッと明るくなった。
あぁ、齋藤さんはきっと本当に着物が大好きなんだろうな…と思って、なんだかこちらまで嬉しくなってしまった。
齋藤さんは想像通りというか、お電話で受けた印象そのままの、とても楽しい人で、「私、日本画、書道、フランス語、ピアノ…色々手を出したんですけど、全部中途半端なんです(笑)。」と笑って話されるのだけど、線香花火へのこだわりには並々ならぬものがあるように感じられた。
線香花火を作る上では、とにかく水気との戦いなのだそうだ。
中でも和紙がとても重要なパーツとなるらしいのだけど、その和紙は藍染の掛け物で覆われた桐箪笥に大事に保管されていた。
ヒデさんもその和紙を撚る(よる)作業に挑戦。見ている分には上手に出来ているようなのだけど、お手本を見せてもらうと仕上がりが確かに違う事がわかる。
もう何年も、火薬の調合から紙縒り(こより)までを丁寧にやってきたその技術は、さすがに匠と呼ぶに相応しかった。
そこから次は前橋市の「林牧場 福豚の里 とんとん広場」さんへ。
広大な敷地に豚舎が並ぶ。中からは豚の鳴き声がブヒブヒと聞こえて来る。
こちらは農業では珍しく、仕事は完全に8時から5時まででしかも週休完全2日制との事。
大卒の女性も多く勤務されているらしく、勤務時間以外の作業を完全に機械で回せるようにしているのだという。
なるほど、これなら「農家はキツい」という先入観を持つ事なく、純粋に農業に興味が持てるなと思った。
豚に対してもとても気を遣っているらしく、出産の際にはストレスをかけないよう女性が立ち会うよう心がけているとの事。
こういうこだわりを聞く度に、「すごいなぁ」「世の中にはすごい人たちが沢山いるなぁ」と感心して、自分を比べては少し落ち込んだりもする…。
隙間から豚舎を覗くと、一匹の豚と目が合った。なんとなく、親近感が持てて嬉しかった。
一通り見学させて頂いてから併設するレストランで昼食。豚肉の焼きやしゃぶしゃぶなどを頼んでみる。
「うまい!」と川上さんが声をあげる。「へぇー、うまいうまい。」とカメラマンの高橋さんはニコニコ顔。
そろそろ満腹、という頃に、ヒデさんが残ったご飯を牧に渡す。それを川上さんがマンガの山盛りのように牧の茶碗に盛る。 まさにマンガ状態で笑えたのだけど、苦笑いをしながら平らげる彼の食いっぷりを見て、さすがだな、と思った。
それから柳澤酒造さんを訪問して3日目も無事終了。
4日目は朝一番に吹き割の滝へ。ここ、行ってみると結構すごい。
早朝という事で人もほとんどおらず、貸し切りのようでなんとなくワクワクする。
それにしても滝の音というか、水の流れる音というのは、実際に水に入るよりも、それだけで心が洗われるような錯覚に陥る。ヒデさんも、サングラスを外さなかったのはそんな事を感じたからなのかもしれない。違うと思うけど。
そこから僕らは「上越クリスタル硝子」さんへ。
工場を案内して頂いたのだけど、末端にいる僕の所へはなかなか声が聞こえない。ただ、もの凄い熱気と働く人たちの集中力が伝わって来る。まだ20代前半くらいの男の子が、慣れた手つきで棒を使い、器用に溶けた硝子を形作っている。
「カッコいいなぁ…。」
他の人たちも、ほとんど無言でそれぞれに割り振られた行程を淡々とこなしている。つまらなそうにしている訳ではなくて、皆の目は真剣そのものだ。
東京に出て来たての頃は、音楽があって自由な雰囲気のある場所での仕事に憧れたりもしたのだけど、今では違う。こうした、集中して淡々と仕事をする姿を素直にいいな、と思う。
次は永井酒造さんへ。
こちらはシャンパンのような、スパークリングの日本酒がとても有名な酒造だ。
到着すると、ヒデさんが誰かに話しかけられる。知合いかな?と思ってみていると、「おーっ!何やってんの!?」と興奮気味のヒデさん。 後で聞いたところ、17才以下の日本代表時代の同僚の方だったらしく、帰りの車でも、「いやぁ、ビックリしたなぁ…」と、とても懐かしがっていた。
蔵内にある食事処にてお話を伺う。もう日本ではほとんどないような、とてもレトロな雰囲気の場所で、居心地も最高に良く、「飲みたいな…」と心から思える場所だった。






