2011.07.14

群馬日記 後編

永井酒造を出た僕らは、次の訪問先までだいぶ時間がある事に気付いた。
「どうします?」とヒデさんに訪ねると、何やら資料をパラパラとめくり出した。数秒後、ヒデさんがサラッと言う。
「じゃぁ、バンジージャンプ行こか。」
はい、と反射的に返事はしたものの、ん?と思い、想像力を少しだけ働かせてみた。バンジージャンプとはアレだ、PR映像などでは外国人が大自然を背景に恐ろしく高い場所から叫びながら飛んだりしてとても楽しそうなのだけど、大半の人にとってはどう考えても地獄でしかないアレだ。

 

車を出す前に、川上さんと高橋さんにその旨を伝える。蝋人形のように硬直する2人。絶叫ものが特に嫌いな川上さんが目を泳がせながら遠くを見ている。高橋さんは薄笑いを浮かべて「俺はやらないからね。やらない。」と独り言のように呟いている。
「と言う事ですので…。」と言葉を残して僕は車を出した。
40分ほど走ると、無口になっていた牧が「そろそろですね…あ、多分あの橋がそうです。」と目的地を確認した。僕も本当に怖くて、心臓がバクバク…。

 

車を停めると、目の前にジャンプ台と小さな小屋。人の気配はない。後続の車に目を向けると、2人は車から出ようとせず、不安げにこちらの様子を伺っている。橋から下を覗いてみる。思わず「ヒッ!」と声が漏れる…。ヒデさんが、「多分、電話で人を呼ばなきゃいけないんじゃないかな?」というので、放心状態のまま小屋に貼ってあったA4紙に上から下へと目を通した。 下部にあった赤文字を確認した時、多分僕はここ数年で一番喜びを感じたかもしれない。
「水曜(当日)定休日」
不安が破裂しそうになったのか、気付くと川上さんが僕の後ろから紙を覗き込んでいた。「きょ、今日、定休日です!」と伝えると、捨てられる前の子犬のように不安な表情をしていた川上さんが、「え、マジ?マジ?…… やったーっ!」と大人げなく叫びながら飛び跳ねだした。
ヒデさんにその旨伝えると、どこか悔しそうにしている。そんなヒデさんの横で、僕らは輪になって喜びを分かち合ったのだった。

 

その後で浅間酒造さんへ。
もう夕方だったのだけど、気温は下がる気配を見せず、汗が顔を滴っていた。蔵見学の過程で「-8℃」の冷蔵庫の中を見せて頂ける事に。
内心、やった…と思いつつ、ヒデさんらに続いて中へ。体が一瞬にして冷気に包まれ、気持ちいい。
ただ、さすがに-8℃だ。半袖姿だと段々寒くなってくる。心なしか、いつもより冷蔵庫の中での話が長く感じる。半袖に短パンのヒデさんは痩せ我慢なのか、平気な顔で質問を続けていた。程なくして外へ。
「あー寒かった。」と思ったのも束の間、また汗が吹き出して来た。
「暑っ…」
人間って勝手だなと実感する。

 

その後で雨に見舞われながらも「鬼押出し園」に行ってその日は終了。
最終日の朝は5時出発。トウモロコシ栽培をされる「トミーファーム」の冨澤さんを訪ねた。
中之条町にあるこちらは標高800m。野菜は朝晩の温度差が大きければ大きいほど甘さを増すらしく、ここでは真夏の温度差は20℃以上にも及ぶらしい。
元々はサラリーマンをやりながら、1000本だけ作ってみようと思い、出来たトウモロコシを駅前などで売ってみたところ反響がよく、懐疑的だった農業に対しても自信が持てたとの事。

 

「大変は大変ですけど、楽しいは楽しいです。」
という冨澤さんは、栽培方法などは本で調べて、相方の篠原さんと一緒にほぼ独学で農業をされている。この日はまだ時期が早過ぎて試食が出来なかったのだけど、やはりとれたてが一番美味いらしく、日が経つ毎にどんどん糖度も落ちていくらしい。やっぱり生き物なんだな、と実感する。

 

 

その後、「少林山達磨寺」を訪問し、その敷地内にて「西上州竹皮編の前島美江」さんを訪ねた。この竹皮とは、あの昔ながらのおむすびを包む竹の皮の事。
細かく裂かれたその竹皮を、巻きながら針で縫い込むという、とても丈夫で手応えのある技法で作られる。
優しい雰囲気の前島さんとスタッフの方はこの猛暑の中でも着物姿。詳しい事はわからないけど、姿勢も所作も無駄がなく、美しくて、僕は何よりも和の良さを感じる。
ヒデさんも三角形の小さなポシェット作りに挑戦。教え方が良かったのか、かなり上手に仕上がっていた。
「これ、牧の首にさげておにぎり入れにでもしたら?」とヒデさん。苦笑いの牧が印象的だった。
それにしても、風の通り道となった和室は本当に気持ちが良かった。

 

 

そその後僕らは高崎市にある「ガトーフェスタ ハラダ」さんを訪問。
工場内にて製造工程を詳しく見せて頂く。従業員の皆さんは足先から頭まで真っ白のクリーン服。そんな姿から目の部分だけが覗いているのだけど、誰が誰とかちゃんと判別出来ているのかな…とか考えてしまう。
そして何より、甘い香りが充満していて、子供の時に来てたらきっと夢のような場所で、ワクワクしっぱなしだろうなと思った。
ここでは出来立てのフランスパンや出来上がる前のラスクなどを試食させて頂いた。何か特別な感じがして、いつも以上に美味しく感じた。

 

 

次は下仁田ネギの生産者である「吉田恭一」さんを訪ねる。
通常のネギは種まきから8ヶ月程で出荷されるらしいのだけど、この下仁田ネギは13~16ヶ月ヶ月もかかるとの事。その上収量は通常のものに比べて半分程、その上病気にも弱いらしく、ケアも大変との事だった。どうしてわざわざこんなに手のかかるものを選ばれたのだろうと疑問に思ったのだけど、もう長年自分の畑から穫れたネギから選抜して種を採り、より美味しいネギ作りに取り組まれているという話を聞いて、安易な考えをしてしまった事を後悔…。

 

最後は渋川市にある、米粉や製粉技術を使った食品を製造している「群馬製粉」さんを訪問。こちらでは米粉のパスタやそばを試食させて頂く。食感が、なんともツルツルしていて美味しい上に気持ちがよく、「これは女性には特にウケそうじゃない?」とヒデさん。 隣では牧がズズズッと音を立てながら一口で食い終わる。 「牧、試食なんだからもっと味わって食べたら?」というヒデさんの正論なツッコミが飛ぶ。まぁ、牧の食いっぷりはヒデさんも好きなのだけども。

 

 

こうして久しぶりに再開した旅は楽しく終わった。群馬は場所や時間によってもの凄く暑い所ととても過ごし易い所があって、色々な顔を持っていた。
思えばどの県も、人に対してもそうなように、こちらが知ろうとすれば色々な顔を見せてくれて、その度に先入観というものがどれほど意味のないものかを思い知る。発見と気付きの連続。やはり旅は楽しいな、と実感する。

 

次は静岡へ行く。

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。