2011.09.27
新潟日記 前編
高速道路を北上し、新潟へ入る。
さすがは米どころ、両脇には有名な誰かの風景画のような、とにかく鮮やかな黄金色の田んぼが広がっている。
時期はちょうど9月の下旬、これから稲刈りが始まる頃だ。
初日の訪問先は一件のみ。村上市の宮尾酒造さんへ。新潟と言えば酒、という事でヒデさんはこの新潟の旅を楽しみにしていたのだけど、早速ここでも、利き酒をしながら酒米の話などで盛り上がる。今年のお米は「まぁまぁいいです。」との事で、期待が出来そうだとヒデさんの表情もほころぶ。
ここではこの土地特有の「鮭の酒びたし」というのを出して頂いたのだけど、これがあるとお酒が止まらなくなるな…と心配になるほど美味しかった。
いつもの如く僕は運転で飲めないので脇に座ってメモを取っていると、「せめて香りだけでも楽しんで下さい。」とスタッフの方が僕にもお酒を注いでくれた。
「優しいなぁ…」と思いながら何気なく鼻におちょこを近づける。元々鼻があまりきかない僕はこれまでお酒の香りを楽しむという事はなかったのだけど、飲めないという制限のせいか、とても細かくそれぞれの香りの違いを楽しむ事が出来た。
また、お酒の楽しみ方が増えた気がして、とても嬉しくなった。
2日目、朝は6時半に出発。まだ夜も明け切れず薄暗く、シトシトと雨模様の外。
車を出して数分後、パソコンを叩く手を止めたヒデさんが思い出したように言った。
「宿の飯、美味かったよなぁ?」
確かに、お酒が回ってしまうまではお米に限らず魚やヒデさんが食べていない山菜なども美味しかった事を思い出した。こういう会話をすると、また旅が始まったなと実感する。
まずは農業生産法人である「越後ファーム」へ。通常、流通に乗る前のお米は玄米で保管されているとの事だけど、ここは検査員が社内にいることから、籾(もみ)保管を実現させている。
生産責任者の清田さんに話を聞く。
「お米は収穫された後も生きています。籾保管をすれば呼吸出来るんですね。しかも、この地区の水は湧き水一本で、川の水が入る事はありません。米作りに於いては、そこも強みですね。」
越後ファームでは高級米を売られているのだけど、ヒデさんがその理由を訪ねる。
「今後、TPPの問題もありますし、もしそうなれば価格競争では外国産には勝てません。お米もピンからキリまでになりますが、私たちはピンを目指したいと思ってます。」
最後は清田さん宅にて朝ご飯を頂く。
御飯はもちろん、出して頂いた漬け物や焼き魚、お味噌汁などどれをとっても抜群に美味い。存分に腹一杯食べさせて頂いた。一人暮らしの僕には、こういう朝食は夢のように感じた。
それから僕らは新発田(しばた)市へ移動。刀剣作家の天田昭次さんを訪ねた。
御対応頂いたのは昭次さんの弟さんで、同じく刀匠である天田収貞さん。早速ヒデさんが質問する。
「一本作るのにどのくらい時間がかかるんですか?」
「文化庁から年に24本作っていいと言われていますが、自家製法により作者の名前を彫ってお渡し出来るのは年に2本程度です。普通の刀なら月に1本でしょうか。」との事。
刀…僕はテレビや漫画などで身近な存在のように感じていたのだけど、当然それにも色々種類があるらしい。例えば太刀(たち)と刀の違い、前者は馬に乗って片手で使う武器であり、後者は陸で両手で使う武器らしい…。ちょっと現実的な話になっている。腰への身につけ方も、太刀であれば刃を下に、刀であれば刃を上にするらしく、それらはそれぞれ戦う場面を綿密に想定した理屈に則っていて、とても驚かされた。
ご自宅では、実際に目の前で刀を見せて頂いたのだけど、その美しさのみならず、静かな威厳のようなものを感じる。
ヒデさんはズシリとした重みのある刀を手にとり、何度も何度も刃に顔を近づけてはその美しい線に自分の視線を重ねていた。
僕はなぜか、自分の手にとってみたいと思う事はなかった。ただ、その刃が鞘に収まる時の音は何か独特で、どこか安心感にも似たものを感じた。そして完全に収まってしまった後の静けさがやけに心地よかったのが印象的で、それらの感覚は、生き物に対して抱くものに似ている気がした。
それから上越市の岩の原葡萄園さんへ。
こちら、1890年創業の、日本で3番目に古いワイナリーとの事。
まぁ、いつものようにワイナリーとなると酒蔵同様に話は盛り上がる。ただでさえ酒好き同士の話なのに、テイスティングを理由にお酒が入るものだからトークもまた進む…。
例に漏れず、こちらでも社長の坂田さんとワイン談義に花が咲いた。
しかも、白のテイスティングでヒデさんが糖度をピッタリ当ててしまったのだけど、それには坂田さんも目を丸くして驚かれて、「いやいや…驚きました。ここまで驚かされたのは、辰巳琢郎さん以外では初めてです(笑)」との事。
それから最後は美の川酒造さんへ。
到着前の車の中で、「次の所のお酒はなんか特徴があるんですかね?」とヒデさんに聞いてみた。「なんか、大吟醸とかを酒米に雄町(おまち)を使って造ってるらしいんだよね。新潟だけど、甘口なんじゃないかな。」とのこと。
よくわからないのだけど、大吟醸酒などでは山田錦という酒米が使われるのが一般的らしい。
とても優しい雰囲気の、松本社長とヒデさんが話始める。
「新潟のお酒というと淡麗辛口ですが、うちのは米の甘味を出しています。」なるほど、ヒデさんが言っていた通りらしい。ヒデさんの質問が続く。「雄町を使って古酒を造ったらどうなるんですかね??」
すると松本さん、「うーん…角がとれますね、はい。」
か、角…?数県前からだけど、酒蔵においてもう僕は会話について行く事が出来なくなってきている。
3日目、朝は今日も小雨がパラつき、気温は13度。東京を出た日の気温は30度あったのに…。
最初の目的地は魚沼市のコシヒカリ生産者である、鈴木清さん。
目的地が近くなると、やけに傾斜の急な北欧などでよく見るような屋根の家が多く、この辺りの積雪の多さを窺わせる。
中学を出られてからもう50年も農業をやられているという鈴木さん、新潟産コシヒカリの中でも名産品とされているものは魚沼、佐渡、そして岩船産のものがあるという、基本的な事から丁寧に教えて頂いた。お米は穂が出てからの寒暖の差が大きいほど“味がのる”らしく、まさにこの地域は適しているという。
実際におにぎりを出して頂き、試食。前述したように鼻が悪いので味がよくわかる訳ではないのだけど、とにかく美味い。僕とヒデさんが3個ずつ、同行ディレクター兼カメラマンの牧が5個をペロッと平らげた。牧のその食いっぷりを、嬉しそうに楽しそうに眺める鈴木さんの笑顔が印象的だった。




