2010.11.27
長野日記 後編
5日目、まずは朝から戸隠神社へ。ここ、参道入口から約2kmを歩くのだけど、江戸時代に植えられたという、道の両側にそびえる杉並木が素晴らしく、自然に圧倒される事は気持ちが良い事なのだと改めて知らされる。
とは言いつつ、撮影もしなければならない大島と僕はヒデさんより先を行かねばならず、恒例の旅ダッシュ。折角の気持ちの良い場所なのに、半分を来た頃には僕ら2人は汗だく状態。上着を脇に抱えた大島に、「ねぇ、ついさっきまでメチャクチャ寒くなかったっけ?」と確認してしまうほどだった。
その後戸隠神社のすぐそばにある「うずら家」にて蕎麦を食べ、僕らは「小布施ワイナリー」へ移動。責任者の曽我さんのお話でも、日本のワインは薄いと言われる、というのがあった。「けど、日本の食を考えるとどうしても強い味のものは作れないですよね…。」と話される曽我さん。
僕は運転で飲めないだけに、そのような葛藤から生まれるワインはどんな味がするんだろうと気になって仕方なかった。
それから塩尻へ移動し、五一ワインさんを訪問。
社長の林さんに御案内頂いたのだけど、醸造所では貴腐ワインの搾りを見せて頂いた。貴腐ワインは自然発生する“貴腐菌”が葡萄につかないとできないとの事で、どこのワイナリーにもあるという事ではないらしい。
ここでも最後に試飲をさせて頂いたのだけど、冷え込みがキツくなりだした季節柄、並んだボトルを見ているだけで、一滴も飲めない事が本当に辛いと感じた。
その日は最後に漆職人の伊藤猛さんを訪ねて終了。
6日目の午前は「黒部ダム」へ。
高速を降りてから下道を走る。前方のどんより曇った空の下には雪山が見えだした。そこへこれから行くのだと思うと、少しだけゾッとした。集合場所の扇沢駅には、スノーボードやスキー目当ての人たちの姿が。1 度もスキーをした事がない僕は少しテンションが上がるのを感じる。
ここで合流した電気事業連合会の方々とバンに乗り込み、全員が安全ヘルメットを被ってダムへ移動。ヒデさん、ヘルメットが不自然であまり似合ってない。話をしながら進むトンネル。その長さに驚く。車中では世界におけるエネルギー問題の話など、色々勉強させてもらいながらダムへ到着。
長いトンネルを通って来た反動もあったのだろうけど、曇り空にもかかわらず、素晴らしい景色に顔がほころぶ。山々は所々雪で白かったのだけど、木曽や諏訪地方のような寒さを不思議と感じなかった。
山を昼前に降りた僕らは「青空屋台のおうち」にて昼食。カレーがめちゃくちゃ美味しかった。
それから南へ100kmほど移動し、伊那市の米農家、伊藤陽一郎さんを訪問。
今年の旅から農家さんや酒造さんで良く耳にする事に高温障害というのがある。標高が800mある伊藤さんの農場ではまだ温暖化の影響は受けていないとの事で、「そう言えば標高1000mの場所にあったゆい自然農園でもその話は聞かなかったな。」と思い出す。
土作りがとても重要だという話の中で、「堆肥が宝です。」という言葉が何度も出て来たのだけど、お米作りに於いての「足音が一番の肥料です。手間を惜しんでは絶対にいけませんから。」という言葉にとても重みを感じた。最後に伊藤さんが「絶対に食べて行って下さい!」と言われていたこの地域の五平餅を頂き、お腹も満たさせてもらった。旅の醍醐味である。
最後に信州味噌の喜多屋醸造さんを訪問してから終了、最終日へ。
朝一で長野市の「善光寺」へ。
靴を脱いで本堂へと入る。気温は多分、5、6℃ほどだった気がする。
冷たい床を歩く足の裏が徐々に痛み始め、同じ場所に立っていられない。ヒデさんは畳の上で正座している。ピクリとも動かずジッとしているが、寒くも痛くもないはずがないので、「強いなぁ…」と周りをウロウロしながら思った。
そこから次は東御市にある「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」へ。
併設するカフェレストランにて農園主の玉村さんにお話を伺う。高台に位置するこのカフェレストランは陽当たりも見晴らしも良く、働いている従業員さん達の明るさも手伝って素晴らしい雰囲気。
60才も半ばと思われる玉村さんはエッセイストでもあり画家でもあられるのだけど、ワイン造りを始めて6年だという。人は何才で何を始めても良いのだと勝手に教えられた気分になった。お店の雰囲気をえらく気に入った様子のヒデさん。帰りの車では「ああいうお店はいいよな。行って楽しくて食べても美味しくて。自分でもやってみたいな。」とまで、漏らしていた。有言実行型の人間なので、もしかすると、もしかするかも、と思った。
それから陶芸家の筒井廣明さんを訪ねて、僕らは再び木曽へ移動。
漆職人の北原 久さんを訪問。
70才を超える北原さんの目が、とても若い。動きも軽く、袖を肘までまくった姿がどこかカッコいい。
最近、漆に大きな関心を持つヒデさんが漆の色についての質問をした時の事、漆には朱や黒以外にも青や黄色や紫などの色があるらしいのだけど、ヒデさんは「漆には朱か黒か、という認知しかない気がするなぁ…。」とポツリ。確かに僕にもそう思えた。
「漆を習いたい。」と言う人は東京にも沢山いるのだと話を伺う、ただ、「仕事があるかというとそうではないので教えられません。仕事があれば…自分も弟子をとって教えたいです。」と北原さん。これが伝統工芸家の方々の、共通する一番大きな問題なのかもしれない。
最後に旅では初となる“お六櫛職人”の青柳和邦さんを訪問し、長野の旅は終了した。
何泊目だったか、宿泊先にて「温泉には最高の季節になってきたなぁ」としみじみ感じながら露天風呂に入っていた時の事。先に部屋に戻った大島に「また明日ね。」と言い、僕はもう少しだけいようとお湯に残った。そこで、居合わせた50代半ばと思われる“おじさん”が、「失礼ですが、国際宇宙ステーションって見た事はありますか?」と嬉々とした表情で尋ねてこられた。「え?すみません、ないです。」と答えた僕。
「いやね、インターネットで検索すると、例えばどこどこの町からなら何日に見えるって、正確に出て来るんです。それが、本当に見えるんです。」おじさんは、雲1つない空に浮かぶ満月を見ながら夢の話でもするように話をしている。
「何か、神秘的ですよねぇ…。もうね、会社の若い子たちにもみんなに教えてるんですよ。1回でいいから見てみなさいって(笑)」
不意に話しかけられて驚いた僕は、もしかしたら素っ気ない返事をしてしまったかも知れない。けど、僕にとっては、宇宙ステーションより何より、そのおじさんが子供のような表情で宇宙を語りながら夜空を見るその目が神秘的に映った。そんなに暗い人間ではないと思うけど、自分は最近、こんなにも嬉しそうに何かを話した事なんてあっただろうかと自らを省みた。
旅で出合う人が、自分が必要としている事を映し出してくれる。
次は新潟へ向かう。






