2010.10.23
愛知日記 後編
4日目、朝は名古屋市内の熱田神宮へ行ってから、再び瀬戸市へ。陶芸家の長江重和さんを訪問。
長江さんは、石膏を鋳型に流し込んで作る「鋳込み」による磁器作りをされている方。工房の2階には作品がずらりと並んでいて、コーヒーカップなども、どこか変わったデザインの物が多い。長江さん曰く、形のアイデアを考えるにあたって、同じ日にやるとどうしても変化に乏しくなる為、日を変えてやったりする事を心がけているという。
それにしても、木と白壁が基調とされたとても居心地の良い建物だった。
いざヒデさんも体験、鋳型に石膏を流し込むヒデさん。これが意外と難しそうだったのだけど、ふと長江さんが「良かった…。」と漏らされた。
「いや、最初からうまくやられたらどうしようかと思って…。」
この発言、実はたびたび訪問先で聞く事がある。
それだけ技術の習得に時間をかけ、苦労をされているからこそ「簡単に」成功されては困るという事なのだろうけど、僕はこういう職人さん達の素直な所に、すごいな、と思わされる。
瀬戸を出た僕らは豊田市にある「野田味噌商店 枡塚味噌」さんを訪問。
ご案内頂いた野田さん、元々プロ野球を目指されていた方で、とても熱い方なのだけど、「たまり」と「醤油」の違いなど、興味深い話を幾つも聞けたり、野田さんが子供の時分からおやつ代わりに食べていた、という「味噌玉」と呼ばれる緑のカビが生えた豆麹を食べさせてもらったり…まぁ、味としては完全にカビの味しかしなかった気もするのだけど、良い経験にはなったのだと思う…。
蔵を見せて頂いた際、ヒデさんが樽を見て「これ、どの部分の味噌も同じなんですか?」と質問すると、「いえ、実は樽の上下横から1mの、中心部分にある“とろ味噌”と呼ばれる部分が一番美味しいんです。」との事。
ただこの部分が市場に出回る事はそうないとの事なのだけど、火入れをしていない“生”の味噌などは、わざわざ東京から車で買いに来る業界人がいたりする程、人気なのだとか。
野田さんは味噌造りについてこう話される。
「僕らは味噌は作らないんです。僕らに出来る事って、樽に仕込む事だけなんですよ。後は時間が自然とうまくやって、勝手に味噌を作ってくれますから。作ろうとすると、余計な事しちゃいますからね(笑)」
この言葉を聞いて、「醸造」という技法の深さが少しわかった気がした。
その後でもう1ヶ所、味噌の「伊藤商店 傳右衛門」さんを訪問し、この日最後の訪問地である「山忠本家酒造」さんを訪ねた。
ここでは山田社長と、その息子さんである昌弘さんにお話を伺ったのだけど、この昌弘さんの話が新鮮だった。
「自分は次男ですが、ここを継がせて欲しいと父にお願いしたところ、断られてしまいました。それでも、と言い続けた所ある条件を出されたので、それを何とかクリアしたんです。」
昌弘さん、以前はお酒も全く飲めなかったとの事なのだけど、それをも克服したというのだ。
なぜそこまでしてこの仕事をしようと思ったのかと聞いてみた。
「自分の好きな事をやって、それで家族を養っている父を見てすごいと思ったんです。自分もそうしたいな、と。」
昌弘さんは、少しも照れる事なくそう話して下さった。お父さんはこの話の時にはいらっしゃらなかったのだけど、これを聞いたらどれだけ嬉しいだろうか,と想像が膨らんだ。その横では、高橋カメラマンが例の如くヒデさんに勧められて酒を利いていたのだけど、一瞬、蔵人、もしくは利き酒師にも見えるほどに様になっていた。
5日目、最終日。愛知県の東にある新城市の宿から知多半島の先まで130kmあまりを移動。目的地はハーブ農場である「ホリスティックファーム」。
こちらでは自然農法により西洋野菜やハーブなどを栽培されている。
目的地まで後1kmほどとなった辺りから、緩やかな坂を登っていく。到着してまず、その畑の先に広がる海の景色に目を奪われる。思わず、空気を思い切り吸い込んでみた。海風のせいか、少しだけ塩っぱい気がした。
そんな気持ちの良い農園を歩きながら、山本さんご夫婦にお話を伺う。
「農園の土地を結構な期間探していたのですが、ここの景色を見た瞬間に決めました。最初は土壌も堅くて不安だったのですが、調べてみると、堆積岩の一種でミネラル分が豊富らしく、ハーブを育てるには非常に適している事がわかったんです。運が良かったんです。」
僕らの足下では元気過ぎる犬がものすごい勢いで走り回っている。奥さんの秀美さんは話をしながらあちこちのハーブを摘んでいて、その手には赤や緑や紫の色が束になっていた。笑顔の素敵なとても明るい方で、仕切りにこの土地と巡り会えた事を「運が良かったんです!」と感謝されている姿が印象的だった。
愛知県最後の訪問先は、常滑市の陶芸家、第四代 山田常山さん。
常滑焼は六古窯の1 つに数えられていて、備前(岡山)、丹波(兵庫)、信楽(滋賀)、越前(福井)、瀬戸(愛知)と来て、僕らは全てをまわった事になる。ちょっとだけ感慨深い。
ここでは始めて、急須についてのお話を伺う。
器と違って、ひとつを作るのに本体、蓋、口、把手など、何工程もあり、とにかく手間がかかるとの事。
実際に作陶を見せて頂いた時、山田さんが仙人のような雰囲気を出し始めたのに驚く。
山田さんは自らが陶芸家である事に対して、「自分にとってこんなに良い仕事は他にないです。好きな物を作って、それが売れるなんて。」とおっしゃる。
それを聞いたヒデさんも、「楽しもうとする努力は絶対必要ですよね。」と自らを重ねるように話していた。
山田さんにお茶をいれて頂いた時、こういう話をされた。
「今は玉露をやる人は少ないのではないでしょうか…。こうして冷めるまで待って、味をゆっくりと出してから飲むというのは、今の人たちの生活スタイルには合わないのかも知れませんね。」
確かに、現代の生活の中で時間のかかる事は敬遠されがち。けど山田さんのふとした言葉を聞いて、味噌の熟成に2年、3年かけるという話を思い出した。何事も、良いもの、美味しいものを作るのには時間がじっくりとかけられている。
楽しみというものの中にも、時間をかけないと見えてこないものだってきっとあるのだと思う。
次は長野へ行く。





