2011.12.19
栃木日記 中編
八木澤さんの工房を後にした僕らは宿泊先である鬼怒川温泉へと向かった。
ナビは遠回りになる高速道路ルートを取らず、距離優先ルートを指していた。山道へと入り出した時の気温が0℃、道路が心なしかキラキラしていて、「これは…凍ってる…?」といぶかしみ、坂道を登りながらも少し胸がドキドキしはじめた。登り進めるにつれて気温が−1℃、−2℃、−3℃…と下がり続ける。いつの間にか雪も降り始めていて、外は真っ白な世界になっていた。ヒデさんに、「これ…大丈夫ですかね?」と問いかけると、「まぁ、大丈夫だろ…。」と、珍しくどこか迷いを感じ取れる返答が…。
スリップが怖いのでノロノロと進んでいると、気温は遂に−7℃…。九州生まれの僕にとっては未知の世界。結局車に乗ってる意味がない程のノロノロ運転でなんとか宿まで辿り着いたのだけど、山を下る時は本当に怖かった。旅は修行だ…。
3日目、朝から小林酒造さん、若駒酒造さんと酒蔵を2ヶ所訪問し、お昼過ぎに指物師である鈴木光爾さんを訪問。鈴木さんの作品を見ながら、ヒデさんが感嘆の声を漏らす。
「すごいね。へぇー…すごい…。」
鈴木さんの作品の特徴の一つに、「ダイヤカット」というのがあるのだけど、1枚1枚の木片をダイヤの形状に組み上げる独特の技法だという。
鈴木さんのそれらの作品は、なんでもないように、普通に飾ってあって、飼われている猫がそのとんでもなく素晴らしい作品群の合間を縫って歩き回ったりしている。「(おい!こら!猫!ダメだろ!)」という感じで、ヒヤヒヤしてしまって全く取材に集中出来ない…。
鈴木さんはお父さんも指物師という事で、子供の頃から身近に高い技術を感じていたとは思うのだけど、この技術の高さ、細かさはそれだけの理由では片付けられない、それほどにすごくて、ヒデさんも「これはもう…マニアだよね…指物はマニアだよ。」と驚きっぱなしだった。
それから真岡市へ移動し、陶芸家の井口大輔さんを訪問。
井口さんの作品は、これまでにあまり見た事がないような肌触りのもの。ザラザラとした表面が気持ちよく、触れたい気持ちがこみ上げて来るような物。
ヒデさんが思わず、「これ、鉄じゃないですよね?陶器ですよね?」と冗談まじりに言っていたのも頷ける。
「自分でも作品を、銹陶(しゅうとう)と呼んでいるんです。錆びた陶器という意味です。」
井口さんのお父さんが元々美術関係をお好きだったとの事で、小学生の時に陶芸の町と言われる益子の作家さんの所で初めて陶芸をやられたとの事。
こういう話を聞くと、やはり親の行動に子供は少なからず影響されるものなのだなと改めて思わされる…。
途中、コーヒーとお菓子を出して頂いたのだけど、そのどちらもが美味しくて、それはただ美味しいだけじゃない、温かさを感じたのだけど、最後の記念写真撮影の時に出てこられた奥さんとお子さんを見て、あぁ、温かさの秘密はこの幸せなのかぁとこっそり納得させられた。
4日目、早朝から平和観音へ。事前に巨大な観音様がある、という情報は聞いていたのだけど、間近で見てみると、想像よりも遥かに大きかった。昭和27年に約6年かけて作られたとの事だけど、高さは27mで、頭からつま先までが総手彫りといのにはビックリである。けどそれより何より、ものすごく寒かった…。
その後で相澤酒造さん、いちご農家の渡辺さんを訪問して、同じくいちご農家の小島農園さんを訪ねる。
小島農園さんでは「とちひめ」という、栃木でしか食べられないいちごを栽培している。
「この辺りでも、20軒ほどの農家でしか作ってないと思います。実が柔らか過ぎて、宅配が出来ないんです。」
なるほど、そういう理由から「栃木でしか食べられない」なのか、と納得。
小島さん曰く、いちごでは歯ごたえ、甘味、酸味の3つが大切だとの事で、とちひめの柔らかさに驚く僕らにこう話される。
「とちひめよりも、やっぱりとちおとめの方がお薦めです。実がしっかりしていて歯ごたえも良いですから。」
夕刻で腹が空き始めた僕からしたら、どちらのいちごもこの上なく美味しそうに見えて仕方がなかった。
この日の最後は陶芸家の佐伯守美さんを訪問。
家の前に到着すると、佐伯さんに笑顔で向かえて頂いた。
ヒデさんが、「良い場所ですね。」と言うと、「この家の前の風景を見てもらえると、作風がわかると思いますよ。」と佐伯さん。
実際に作品を見せて頂くと、まさに家の前の世界が器に投影されているようなものばかり。それらからは哀愁のようなものを感じずにはいられなかった。
佐伯さんの作品にある絵は、まるで描かれているように見えるのだけども、それらは彫った所に違う種類の土を指で嵌め込み(象嵌)してあるもの。異なる色土は窯に入れた時の収縮率も違うそうで、相当な試行錯誤をされた事は間違いない。
ヒデさんも彫りから挑戦。佐伯さんから滲む優しく楽しい雰囲気に、ヒデさんもリラックスして楽しめたようだ。
5日目、まずは神命大神宮へ。こちら、前日に行った平和観音と同じではないけども、高さ25mというとてつもなく大きな神像がある。いつもに比べると時間は8時とそう早くもなかったのだけど、気温は−3℃。ただ、昨日の平和観音ほど寒さは感じなかった。もう、麻痺しているのかもしれない…。
神像のすぐ後ろにある高さ30mの展望台へ登る。そこからは那須高原が一望出来るのだけど、高い所がそう得意でもない僕は鉄の階段がどこか頼りなくて足がすくみっぱなしだった。
それから次は森林ノ牧場さんを訪問。山川さんにお話を聞く。
「大学の頃から、こういう自然に溢れた場所で働きたいと強く思っていました。日本の国土の7割を占める森林をうまく活用して何かできないかなって。」
こちらでは、放牧された牛たちが、木の葉などを食べたり排泄したりする生活サイクルで森を管理している。そしてそんな牛たちからもらう乳製品を販売しているとの事。
ヒデさんもその牛乳で作られたソフトクリームを試食して一言。
「うまい(笑)」
僕も少し頂いてみる。冬場の暖かい室内で食べるソフトクリームというのはなぜにこうも美味しいのだろうか。何事も、ギャップといのは一つのスパイスなのだと思った。
外を歩けば、枯れた落ち葉がびっしりで、まるで絨毯のよう。歩を進める度に何とも心地よい音が足下から聞こえて来る。それだけでもとても幸せを感じれる場所だった。
栃木後編へ続く







