2012.02.15

茨城日記 中編1

3日目、稲敷市の宿を5時半に出発。
まずは笠間市にある笠間稲荷神社へ行き、それから同市にある春風萬里荘へ。
ここは、万能の異才と呼ばれる北大路魯山人が以前アトリエ兼住居として使っていた建物を、昭和40年に北鎌倉から移築したとの事で、茅葺屋根のとても素敵な民家と贅沢な庭園が楽しめる場所。建物の中では、魯山人に限らず数々の作家の展示品も観る事が出来る。
朝の冷たい空気が静けさを助長して、雰囲気はまるで江戸時代からタイムスリップしたように感じる。
こちらでは日動美術財団の大塚さん、櫻井さんにご案内頂いた。
漫画の「美味しんぼ」でも有名なこの魯山人という人は、書家、画家、陶芸家、料理家、美食家など様々な才能を持ち合わせていたとの事だけど、櫻井さん曰く、とにかく何でも自分で作ってしまう人だったらしい。ただ、その理由が素晴らしく思えた。
「聞いた話では、人と書道などで楽しんで、話して、お腹が空いて、けど良い出前がないと言って料理も自分で作って、それを盛りつける器もまた自分で作って…という感じで、こだわりの根本はすべておもてなしの心からなんです。」
自分が持つ何らかの才能にひとつでも気付ければ幸せだと思うのだけど、この人のように、まわりへの心配りから自然と才能を発揮する事は、とても素敵な事だと思う。

 

 

それから陶芸家の寺本守さんを訪問。
とても低音の、ダンディな声をされているのだけど、全身から温かいユーモアを感じ取れる方。
寺本さんは神奈川県出身との事で、笠間市へは34年前に来られたとの事。
ご自宅と隣接するアトリエがある場所は、街とは少し離れた場所にあり、「まわりからは鳥の鳴き声しか聞こえません(笑)」と笑われるのだけど、移られた際はご自宅もアトリエも、あと道路から家までの私道もすべて自らの手で作られたというのには驚かされた。

 

 

寺本さんの作品の、あるキャラクターをとても気に入ったヒデさん。
「こういうのはプレゼントされたら嬉しいよね?これいいなぁ…あぁ…いいなぁ…。」
と嬉しそうな顔で独り言を呟いていた。するとその時、少し強めの地震が来た。
「こっちはまだしょっちゅう揺れてますよ。」と寺本さん。
東京では感じる程の揺れはもうそんなになくなっていたのだけど、少しの距離しか離れていないここ茨城では、まだまだ強い余震が続いているのだなと気付かされた。
こちらでは2人の御弟子さんがいらしたのだけど、寺本さんの話が面白い。
「窯焼きは弟子が2人で見ます。だいたい男と女なのですが、だいたい結婚しますね。多分、火を見てるから、燃えるんじゃないかな?」
冗談なのかどうかわからないような表情でそう話される寺本さんは、大の酒好き。
「近くに良い酒造がありますから、是非行きましょう。」との事で連れて行って頂いたのだけど、そこでのヒデさんと寺本さんの姿を見て、「これがどこかの居酒屋だったら、この2人は職業不詳だなぁ…」と思えてどこかおかしかった。

 

 

その次は茨城県陶芸美術館へ。ここの金子館長にはヒデさんもすごくお世話になっている。現代陶芸評論の第一人者と言われる金子さんの話からは、作家や作品に対して時に厳しい発言もあるのだけど、同時に強い愛情のようなものも感じとれる。幾つか御自身が所有されている作品を見せて頂いた際に、ヒデさんが「買う基準はなんですか?」と質問。これは僕もすごく知りたかった事だったのだけど、その答えはとてもシンプルなものだった。
「基準ですか?あ、それはもう、形の良いものですよ。」
何か、自分には理解出来ないような理屈を予想していたのだけに、この答えにとても安心させられたのだった。

 

 

それから水戸市へ移動。茨城名産のイチゴ、「土の香(とのか)」を生産するハートフルファームの八木岡岳暁さんを訪問。
「美味しいイチゴはどういうものだと思われますか?」とヒデさん。
これまでお米や野菜、梨や桃などの農家さんでもこういう質問をしてきたヒデさん。生産者によってその基準は少なからず違うのだけど、根幹の部分は同じだったりして、その答えはとても勉強になる。
「甘いのを追求した品種はありますけど、イチゴの美味しさは酸味とのバランスだと思います。」
そんな八木岡さんが育てるイチゴ、とにかく表面がツヤツヤしている。
「うちは、ミネラルを多く含んだ地下水に恵まれていて、このツヤツヤはそのおかげですね。」
こちらでは苺ビールやアイスなどの加工品も試食させて頂いたのだけど、ネーミングなどでアイデアを出し合うなどヒデさんも楽しそうだった。

 

 

この日最後の訪問先は紙布(しふ)の第一人者である、桜井貞子さん
紙布とは和紙を2mm幅に切って糸にしたものを織ったもので、僕は出来上がった作品を、見ても、触れても、これがまさか紙で出来たものだとは信じる事ができなかった。
素材となる和紙にはやはりとてもこだわられていて、県内の菊池さんという方が漉く和紙が一番との事。菊池さんは僕らも会いに行く予定だったので、訪問が楽しみになった。
桜井さんのお話の端々からは、例えば「偉そうに喋ってますけれど、全部主人の受け売りですから(笑)」という言葉にあるように、既に他界されている旦那様への愛情がとても感じられて、勝手にご夫婦で仲良くされている所を想像したりして、勝手に羨ましく思って、勝手にいい気分になってしまったほど。
こういう人が織る作品は、こちらから身を包みたくなる魅力がきっとあるだろうなと思えた。

 

 

茨城中編2へ続く

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。