2010.09.22
岐阜日記 後編
熊崎さんの所を出てから今後は一位一刀彫の和仁久幸さんを訪ねる。
工房に入ると、あちこちに優しい表情をした幾つもの彫刻が並んでいる。
こういう彫るという作業、ヒデさんはだいたいハマるのだけど、ここでも例に漏れず、黙々と削りに夢中になっている。
ヒデさんの手に握られていた木は、いつの間にかそれなりの格好になってきていた事に少し驚いた。
次の目的地である白川郷へ向かう途中、予約していたメロンパンを買いに「壱之町珈琲店」へ。
こちら、1日限定12個しか販売されないそうなのだけど、特別に我々の為に別で6個をご用意頂いていたのだ。店から出て来るなりパンを頬張るヒデさん。
「ウマい!」
僕も1つもらって食べてみる。確かに、ウマい!
自称、全国メロンパン愛好会 会長のヒデさん曰く、外側の程よい固さと内側の柔らかさのギャップが絶妙との事なのだけど、1日限定10個はかなりの難関だ…。
4日目最後の訪問先は、世界遺産にも登録されている「白川郷」。
夕暮れ間近に到着した事もあり、急いで高台を目指す。もう半分日は暮れていて、集落には既にポツポツと灯がともっていたのだけど、そこから見た白川郷はまるで原寸大の村のおもちゃのような、それを現実のものとして受け入れるのに抵抗を感じてしまうほどに美しいものだった。
ここでは国の重要文化財にも指定されている「和田家」の和田さんにお話を伺う。この地域はかなりの積雪地帯との事で、真冬の景色は今とは全く違っているとの事。確かに、貼ってあるポスターの写真も、どれも雪をかぶった合掌造りのものばかりだったのだけど、その写真を見るだけで「冬に1度来てみたい!」と思わせてくれるほどワクワクさせられたのだった。
和田さんが話された事で、ここならではのものがひとつあった。
富山の五箇山の集落でも聞いた話だったのだけど、合掌造りの茅葺き屋根の葺き替えなどに多くの人手と時間がかかるとの事から、住人みんながそれらを手伝うとの事だ。そしてその住人同士で行われる労働力の無償の貸し借りの事を、「結(ゆい)」と呼ぶのだそう。(後で調べると、日本の他の地域でも「結」に似た習慣があるようだけど…。)
そしてこの結の文化が世界遺産に登録される上でとても重要な要素になったとも言われるらしいのだけど、逆に、そういう人の思いやりや繋がりが残る土地というのは、世界遺産になるほどもう残っていないのだな…と少し寂しくも感じた。
5日目、朝は6時出発。所々にある深い霧の道を抜けながら山道を進む。目的地は「奥飛騨クマ牧場」。
僕はこれまで本物の熊を見た事がなかったのでこの日を楽しみにしていたのだけど、最初の感想は、かわいい!の一言だった。
こないだ見た野生のサルには可愛らしさの欠片も感じなかったのだけど、ここの熊は、僕らを見つけると立ち上がっては両手を揉んだり叩いたりして餌をくれとアピールしたり、中には岩や台の上で肘をついてこちらを伺っている熊がいたりと、その仕草がまるで人間のようでとてもかわいかった。
そこから今度は乳製品を製造している「牧成舎」を訪問。
出来立てホクホクのモッツァレラチーズを試食させてもらったり、牧場ではホットミルクやコーヒー牛乳、ヨーグルトまで出してもらい、食いしん坊の牧も大喜び。
ここでヒデさんが牧に、「牛乳の一気飲み対決するか?」と持ちかけて、いざ対決。だいたい言い出した方は得意なんだろなぁ、と思っていると、結果はやっぱりヒデさんの圧勝。一息に飲んだヒデさんに対して、牧はゴクゴクと速さより味わいを重視した飲み方だったのが笑えた。
それから「日下部味噌醤油醸造」さんに寄り、僕らは高山市にある生ハム、ベーコンなどのアトリエ、「キュルノンチュエ」を訪問。
建物の立地や雰囲気が、どこかヨーロッパを彷彿とさせる。
フランスでの3年間に及ぶ薫製の修行をされたのが55才の時だった、という店主の山岡さんの話が面白い。
「同じものでも、フランスやイタリアなどのラテンとドイツでは作り方が分かれるんです。ラテンは美味しいものを作ろうとしますが、ドイツは働く為のエネルギー源を第一として作ります。」
なんともお国柄を的確に捉えた意見だなぁと感心させられる。
お店の雰囲気も、どこか日本とは信じ難い。実際にハム、ベーコンなどを試食させて頂いたのだけど、ヨーロッパに長く暮らしたヒデさんからしても、「こんなのが日本で作れるってちょっと考えた事なかったな。」と驚きだったようだ。
その後は養老町まで150キロ以上走り、体験するアートである「養老天命反転地」へ寄ったあと、夜は「鵜飼」を見に長良川へ。
鵜匠の山下さんのお話を聞いて驚いたのだけど、鵜飼いの家に生まれた息子さんは、問答無用で鵜飼いになるというのだ。決して義務ではないのだろうけど、そうして伝統は守られて来ているという事か。
季節は9月の半ばを少し過ぎた頃だったのだけど、夜風が涼しくてとても気持ちが良かった。けど、少し前まではこの時期であれば半袖ではとても寒かったのだそうだ。気候は少しずつ、けど確実に変わって来ているのを実感する。
最終日、朝から「南宮大社」、玉泉堂酒造と訪問し、イチゴ農家の奥田農園さんを訪問。
イチゴというと通常は30から40gほどとの事なのだけど、ここの美人姫というイチゴ、大きいもので100gにもなるという。
今回は実物を見る事が出来なかったのだけど、奥田さんの友人のレストランで出して頂いたソフトクリームと、美人姫100%使用で作られたイチゴジャムがものすごく美味しかった。
最後に陶磁器作家の新里明士さんを訪ねて、岐阜の旅は終わった。
岐阜はとにかく大きかったというのが最初の印象だけど、忘れられないのが美味しい食べ物だ。
メロンパン、飛騨牛カレー、イチゴジャム、アイスクリームにかけるお酒、生ハムにベーコン、そして時期が時期だけに多くの所で出して頂いた栗きんとんなど、美味しいものが満載な土地であった。
そして動物。初日の酒造では熊も出たと言っていたし、サルも出た。
3日目だったか、宿へ帰る途中に鹿の親子と野うさぎに立て続けに遭遇した。
車を走らせているだけで、動物園にいるような、そんな興奮した気分にさせられた。ただ、威嚇して来たサルもそうだったのだけど、動物がこちらを見る目からはむき出しの警戒心が垣間見えた。
なんとなくだけど、動物に対して親近感を持つ事が、人間のエゴのような気がして複雑な気分になってしまった…。
次は愛知へと行く。






