2012.09.10

東京日記中編1

5月のゴールデンウィーク。平日と違って世間にギスギスした雰囲気もない中、僕らはオープン前の東京スカイツリーへと向かった。高速道路から何度も見た事はあったのだけど、徐々に近づくにつれて…そのとんでもない巨大さがわかってくる。最寄り駅周辺では、早朝にも関わらず空を見上げながら写真を撮っている人がちらほら。
なるほど、タワーとしては世界一を誇るこのスカイツリー、東京タワーの高さなんて比較にならないのが、タワーの足下に立ってみると改めてよくわかる。

東京タワーの赤も嫌いではないけども、このスカイツリーの色はなんとも優しい、地域にすんなりと溶け込んでいる色に思えた。
第一展望台へ行くのにエレベーターに乗り込む。これまでに感じた事のない重力をほんの少しだけ感じたのだけど、地上350mにある第一展望台までを、分速600mで、僅か50秒で運んでくれるのだという。
最後にソラカラポイントという最高到達点(451.2m)へ。もう、ここまで高いと、それがどのくらい高いのかわからない。地上を歩く人も見えない。
カフェやレストランもあって、予約を取るのも難しそうだ。確かに景色は良いのだろうけど、足がすくんだ状態で食事を味わえるのかと心配にもなる。
ガラス床と言って、床の一部がガラス張りになっていて、まるで空中に立っているかのような錯覚を味わう場所があるのだけど、ヒデさんも気に入ったのか、ジーッと下を見ながら子供のように数十秒間ガラスの上に立っていた。

ゴールデンウィークが終わる頃のある日の午前、僕らは少しわくわくしながら竹芝客船ターミナルにいた。
片道25時間半の船旅を経て、小笠原諸島を訪問する。
神奈川の旅の最中から、東京の旅ではやはり小笠原諸島を訪問すべきか、という事でヒデさんも話していた。僕らスタッフとしても、世界遺産に登録されているとは言え、船で丸1日かかるような場所にはなかなかプライベートでも行くことができない、という事で、「是非行きましょう!」と興奮気味に口を揃えていたのだけど、「行きたい行きたいって、別に観光しに行く訳じゃないんだから、ちゃんと現地でどういう事が出来るのかをきちんと調べてから決めようよ。」とヒデさん…。
最近僕らスタッフは、この旅の仕事を、旅行に近いものを感じている節がある…。
 
集合場所で、乗船30分前くらいに酔い止めの薬を飲む。ヒデさんは信じられないほど乗り物酔いに強いのだけど、僕は信じられないほど弱い。この小笠原丸(通称“おが丸”)での旅を事前にネットで調べたところ、「確実に酔う…」や「酔い易い人には地獄」などという、思わずPC画面に向かって「ひっ!」と情けない声を上げてしまうような書き込みも見られたので、高揚する気持ちとは裏腹に、僕は何かの戦い(負け戦)にでも挑むような気持ちで乗船した。
 
沢山の人の波に紛れて僕らの宿となる船室へ。なんだか楽しくて仕方なく、船が出てからすぐに甲板へ飛び出した。遠ざかる東京湾を眺めたり、ただ前方に海だけが広がる太平洋の景色に色々な思いを巡らせている内に、時間は意外と速く進んで行く。
2時間ほど経つと、船の周りには海以外、完全に何もない状態になる。濃い青の海は想像するに、とてつもなく深くて、色々な生き物がいて、今ここからそっと落ちたら…と考えると、ヒデさんと行った南アフリカの大自然でも感じなかったほどに自分というものの儚さを思い知らされる。日々の暮しで感じる、窮屈な事や悩みのようなものが、如何に小さく、どうでもいい事かと気付かされる。

幸い海は落ち着いていて、さほど揺れもせず、少しの長旅の疲れと共に、定刻に小笠原諸島は父島へと到着した。
港では、どこから聞きつけたのかヒデさんが乗っている事を知っていた沢山の人達が。少し照れくさそうに出て来るヒデさんを見て、やっぱり有名人なのだな、と改めて思わされる。
 
到着し、車で宿へ移動。少しだけ休憩をしてから、島内の主要スポットをまわる事に。この日ご案内頂いたのは、小笠原諸島の世界自然遺産認定の立役者の1人と言われる、、宮川典継さん。この方、まだエコロジーという言葉が定着する前から自然保護とサーフィン、アート等を結びつけた活動を多岐にわたってして来られた方で、言葉の端々からは自然への愛情が伝わって来る。

ガイドさんなしでは立ち入れない、ここ父島を一望出来るという自然保護区域へ。道路から入る際、生態系を守る為に、靴底や衣服もきれいにする。結構険しい道を、草木を分けながら頂上に向かってひたすら登る。息もゼェゼェ言い出した頃、やっと頂上が見えて来た。先に到着したヒデさんが、思いっきり深呼吸をしているのが見える。そこからは、沢山の人達によって人生を掛けて守られているこの島を、360度見渡す事ができ、まさに絶景と呼べるものだった。

2日目、朝は7時から大神山神社にて正式参拝。太平洋の真上という事もあり、なんとも不思議な感じがした。

それから僕らはUSKコーヒーの山野雄介さんを訪問。
小笠原は日本のコーヒー栽培発祥の地との事。山野さんはここ小笠原にて自然を活かした方法で国産コーヒーを栽培している。土、日はカフェとして営業されているとの事なのだけど、トレーラーハウスがキッチンとなっていて、雰囲気がいい。そして何よりも、畑や森という自然に囲まれたテラス席がなんとも気持ち良い。ヒデさんと話をしながら、僕ら全員にコーヒーを淹れて頂く。
 
元々はこの島ご出身でないという山野さんのお話からは、島で生活する厳しさなども聞く事が出来た。ただ、他島で聞いたことがある、現地の人達が他所から移住してくる人をあまり歓迎しない、という事は、小笠原では皆無との事。
「みんな、大歓迎じゃないですかね。」と山野さん。
途中から、南国を物語るような激しい雨が降り出す。車までのほんの5mほどで、びしょ濡れになるほどだったのだけど、濡れて輝く緑と同化した気分で、とても気持ち良かった。

 
東京日記 中編2へつづく
 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。