2010.07.25
福井日記後編
3日目、朝は7時からまずは大瀧神社へ。
境内に入る階段を上がり、門をくぐると、そこにはこれまで見た事もないような社殿が回廊に囲まれるかたちで構えていた。
起源不詳との事だけど、大きさだけではないこういう建築美を感じる社殿を見ると、昔の宮大工の凄さを実感する。

続けて今度は白山神社へ。
朝の寺社巡りは本当に気持ちが良い。早い時間であれば、何軒まわっても飽きない気がする。
ヒデさんも朝が得意という訳ではないのだろうけど、毎回お寺や神社の訪問が早朝というのには、きっと人がいない時間に行くという以外の理由もある気がする。
この神社も入り口の階段から特別な雰囲気があるのだけど、なんと言っても境内の庭のコケが素晴らしかった。思わず深呼吸をしてみる。
この時思ったのだけど、深呼吸って空気が美味しいと感じるからするのではなくて、多分に目に映る自然の美しい光景から、ふいにしたくなるものなんじゃないだろうか…。
まぁ、どっちでもいいのだけど。
その後、酒造を一軒まわってから、越前焼きのたいら窯に藤田さんを訪ねた。
アスファルトの道から山を登るように細い道へと入って行く。本当にこの先にあるんだろうかと、少し不安になりながら道を進むと、そこにたいら窯は確かにあった。
藤田さんは黒ぶちのお洒落な眼鏡をかけていて、声は低く、白髪まじりの髪をオールバックにした、その姿はこれまでの窯元さんとちょっと違う、どこかダンディな雰囲気の方だった。

藤田さんは、気持ちが良いくらいに福井の事が好きとおっしゃる。
「山があって、水が豊富でしょう。海もすぐ近くにあり、当然魚も美味しいですよね。何もないです。確かに何もないんですけど、皮肉ですが、何もないのが本当に良いんです。ただ、梅雨の時期と鉛のような寒さの冬が大変ですけどね。」
そしてその気持ちは、日本人に対しても同じだった。
「日本はまず、日本人の価値を誇るべきです。日本人はどの人種と比べても一番繊細です。その人種が作り出すもの、食事の繊細さと言ったら、他には真似できないですよ。」
耳が、痛い。後ろで話を聞いていた僕の耳は、血が出ているんじゃないかというくらい痛かった。
思慮のない僕が生活の中で手にしたり口にしたりするものは全く繊細さのかけらもないように思えてしまったからだ。インスタント食品とか…。
その夜は福井で有名な「ヨーロッパ軒」という洋食屋さんで夕食。
ソースカツ丼発祥の店とされているらしいのだけど、まぁよくヒデさんも色々な情報を集めて来るものだと感心させられる。
そしてこの人は、とにかくカレーとかカツとかコロッケとか、そういう類いのものに目がない。
いつもの頼み方で3人が3通り違うものを頼んで、少しずつ分けて食べる。確かにソースが違う。これまでに食べた事のない味。昼食を抜いていた僕らは瞬く間に皿をキレイにして、宿へと向かった。
2日目の最後に、僕らが東尋坊へ行った時の事。
東尋坊とは、三国町にある崖である。観光地でもあるため、人が多いかと心配していたのだけど、思ったより少なくゆっくりできた。
「あの崖の先まで行ってみようよ。」
ヒデさんが岩場を歩き出した。何か懐かしさを覚える。
そう言えば、この旅の始まりの地、波照間島にも同じような崖があった。波の荒々しさなどで言えば波照間島の方が断然すごかったのだけど、時間はちょうど日没間近、崖の先からは視界いっぱいに日本海がひろがっていた。

海と空の境目を探してみる。水平線あたりの色の表現が難しい。
その上には夕日に照らされた空が赤く染まっていた。完璧な色のバランスに心が震える。
「キレイだなー。」思わず口をついて出る言葉。
毎回思うのだけど、言葉にしてしまうとそのすごさが全く伝わらない…。

「太陽が完全に沈むまで、ちょっと見て行こうよ。」
崖の先に立ってじっと海を見ていたヒデさんからの提案。
なんてキレイなんだろうと、徐々に海に吸収されて行く太陽を見ていると、この素晴らしい景色は珍しい事じゃなくて、毎日の日常なんだという当たり前の事に気が付いた。
日没は、別に東尋坊にしかない訳ではない。そして当たり前のように明日の朝にはまた東から昇るのだ。僕たちが生きる日常の中にはきっと、僕らが気付いていないだけで本当は素晴らしいもの、美しいものが沢山隠れているのかもしれない。
東京に戻ったら、まずは日常に注意深く目を向けてみよう、そう思った。
次は石川へ向かう。
