2012.09.10

東京日記後編5

この日最後は小平市へ。金工家の奥村公規さんを訪ねた。
マンションの一室に案内されると、そこは外からは想像出来ないような、どこかワクワクするような工房だった。使い込まれてどんな家具職人にも出せないような味わいのある作業机、壁に並ぶ、ヒデさんも一時見入ってしまった刀の鍔(つば)、木製の棚にぎっしり詰まった数々の本と、並べて掛けられた幾つもの道具たち・・この工房から感じる温かさは、それら全てから発されているようで、初めて来た場所なのに、居心地の良さを覚えてしまう、そんな場所だった。
「鍛金は造形だけで見せる。金工は細工で見せます。」
と奥村さん。その象徴ではないけれど、刀の鍔を例にとって、その細工の素晴らしさを説明して頂く。

「中田さんが折角いらっしゃるという事で、ペンダントをつくってもらおうと思って。」と、奥村さんが金属板を用意してくれた。
旅の当初から、ヒデさんがこういう場面では「自分はデザインが苦手で…」と言って、何分もの間ジッと考え込んでしまうのを幾度となく見て来た。だけど最近では、その考える時間が大幅に短縮されて、割とすぐに手を動かし始めるようになったと思う。きっと膨大な数の作品を見たり、その技法を掘り下げて勉強した事で、「苦手」というデザインを、少なからず頭にイメージできるようになったのかもしれない。学びが、苦手を克服していくという場面を目撃した気がした。

最終日、朝から陶芸家の前田正博さんを訪問してから、東京の旅の最後となる、三鷹の森ジブリ美術館へ向かった。
井の頭公園脇を車で走る。気分が高揚している為か、公園の木々が既に森のように思えた。これほどまでに訪問を楽しみにした場所が、これまでの旅であっただろうか。門を開けて頂き、車で敷地に入る。目の前に建つ建物を認めると、気分はその瞬間から俗にいうジブリワールドにドップリと浸かってしまった。この日は閉館日。取材という事で、特別に開けて頂いたのだけど、僕らだけの、何とも贅沢な時間を過ごさせて頂いた。
「ここに人がいない時に来れるって、もうないかもな。」とヒデさん。
思うに、この人も相当楽しみにしていたに違いない。

ジブリとは、サハラ砂漠に吹く熱風、という意味があるそうで、アニメ界に旋風を巻き起こすという趣旨で付けられた名前だという。まさに有言実行だ。
まずは、約16分間のショートフィルムを観る。この短い時間の中に、途轍もなく広い世界観、予想を遥かに上回るイマジネーション、ジブリらしい優しさや育みといった要素がふんだんに散りばめられている、素晴らしい作品だった。
そして数歩歩けば、館内ではジブリの小さな遊びに遭遇する事が出来た。壁にビー玉が埋まっているなと思い、近づいてみるとそれは巧妙に描かれたものだったり、そしてそれらは当然、全て子供の目線に合わせられていた。同じような遊びが、神奈川の旅で訪れた藤子・F・不二雄ミュージアムにもあった事を思い出す。

ご案内頂いた広報の方によると、都心から打合せなどでここを訪れる方々も、帰りたくなくなるとの事…。それが痛い程わかったのは、僕らも帰り際に強くそう思わされたからだ。この場所では、ネガティブな事を一切感じる事なく過ごす事が出来る、特別な場所だった。夢を実現できる人は限られているかもしれないけども、この場所では、宮崎駿という人が実現した夢に触れる事が出来た気がする。それはそれで、とても感動的なものだったと思う。
東京の旅、最後の訪問地として、最高の場所だった。

こうして、長かった東京の旅は終わった。
結論としては、やはり東京には色んな「人」や「もの」が集結していて、その数はまさに、東京という街の吸引力を表しているのだと思う。
これまでこの仕事のおかげで、何者でもない僕が幾人もの人間国宝のお話を聞く機会を得られたのだけど、どの方にも共通して感じるのは、その仕事に対する強い思い入れだ。その素材、技法の素晴らしさを如何に後世に伝えるか、そして現世に広めるか、という事を心から按じておられる。蒔絵の室瀬さんにしても、その漆という素材に関して、「中田さんには、漆の強さ、というものを是非とも世間に伝えて欲しい。」と話されていた。ご自分の作品の話は、ヒデさんが聞かない限りはほとんど出てこない。その仕事を心から愛するという事は、そういう事なのだと思う。
そして最近は、1つの旅が終わる度に、ヒデさんの成長と自分の成長とのギャップに溜め息を漏らしてばかりいたのだけど、まさか、ジブリの知識でも完敗していた事に関しては本当にショックだった…。

次の目的地は福島。旅はいよいよ、東北へ入る。

 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。