2012.10.16
福島日記中編3
6日目、まずは恵隆寺へ。気温は10℃なのだけど、だいぶ体もこの寒さに慣れて来たのを感じる。ご祈祷をして頂いて、副住職の藤田さんにお話を伺ったのだけど、面白い話を幾つもして頂く。
例えば千手観音は42本の手があって、2本は僕らと同じ手で、残りの40本はそれぞれ25の力を持っているのだという。25×40で1,000の手、という事らしい。千手観音という聞き慣れた言葉なのに、どうしてこれまでその意味に疑問を持たなかったのだろうか…。
また、観音堂内には抱きついてお願い事をするとそれが叶うとされる「だきつき柱」があったのだけど、ヒデさんが意外にも自然と柱に抱きついていたのに少し驚いた…。

それから僕らは廣木酒造本店さんを訪問。廣木健司さんにお話を伺う。
こちらのお酒、とても人気があるらしく、蔵にも在庫はないと言われるほど。通りの先に長蛇の列が出来ていたのだけど、そこは酒屋さんとの事で、こちらのお酒を求めて来ている方達も多くいたようだ。
お話を伺いながら、「こづゆ」という会津地方の郷土料理を出して頂く。福島は、新潟と並んで突出して郷土料理を出して頂く機会が多い。
僕の地元である熊本にも、僕が知らないだけで幾つもの郷土料理があるのだろうか…。
東日本大震災で一升瓶が1,000本程が割れたとの事だけど、「うちはそれだけですから。」と廣木さん。ただ、きっと影響はそれだけではないはず。最後に話された言葉が印象的だった。
「人も会社も、多分厳しい環境にいた方が成長出来るんじゃないか。20年後にもっとうまい酒を作れていれば、それは素晴らしい事だなと思います。」
先を見据えて仕事をして行く事。きっとそれはとても難しい事なのだけど、旅で出合った賢人達は、みなそれを実践している事も確かだと思う。

次の訪問先はお米農家の古川勝幸さん。古川さんの作るお米は漢方米というのだけど、意味はそのまま、漢方薬を使って育てたお米の事だという。田んぼへ行くと、見慣れないはぜ掛け(お米を乾燥させる方法)に地方の特色を感じる。
「お米は天日干しに限りますね。やはり味が出ます。」と古川さん。
収量を増やす事に力を注ぐやり方に疑問を感じ、違う道を探ったという古川さんがこう続ける。
「機械的に作ったお米は美味しくない。心がこもってないお米は美味しくありません。」
静かな声でゆっくりと話す古川さんの話を聞きながら、ここではピクニックのように、シートを敷いておにぎりやお吸い物を出して頂く。田んぼで食べるおにぎりは、寒さを忘れるほど、格別に美味しかった。

それから岩瀬農場を訪問し、この日最後は陶芸家の志賀暁吉さんを訪ねた。
志賀さんは浪江町のご出身。浪江町と言えば事故のあった原発のすぐ近くで、現在は避難生活をされている。被災していない僕には想像も出来ない、色々な思いがあるはずなのだけど、志賀さんはそれらの気持ちを、丁寧に語ってくれた。
「同じ浪江の中でも、戻れそうな所とそうでない所があるようですが、多分僕の実家は無理ですね・・。」
志賀さんの作品は、とてもシンプルなのだけど、何故か見入ってしまうようなものが多い。ヒデさんもそれぞれ展示された作品に完全に魅せられていた。
今は家族と共に避難生活を強いられている志賀さんは、もう一度自分の家と仕事場を持つために土地を探しているとの事。
「出来れば福島がいいですね。知らない土地は不安ですし、この場所に特別な思いもあります。福島が無理でも、東北に居続けたいです。」
志賀さんも、とても素朴で、静かな方なのだけど、その佇まいからは、強い思いが伝わって来る。まだ若い志賀さんだけど、これからも注目して行きたいなと素直に思わされた。

7日目、まずは7時より慧日寺を訪問。うっすらと霧が出ていて、雰囲気はどこか幻想的。毎回ここでも書いているけども、自然に囲まれる気持ちよさは、寒ささえも忘れさせてくれる。

それから僕らは宮泉銘醸株式会社さんを訪問。こちらの酒造、鶴ヶ城のすぐ側に位置する。宮森義弘さんにお話を伺う。宮森さん、若い方だな、と思っていると、ヒデさんと同じ年だとの事。昨日訪れた廣木酒造さんとも仲が良いとの事。
「廣木さんは憧れのような存在。でも彼にも言ってますが、憧れで終わるつもりはありませんよって。いつか抜いて見せますって話してます。」
そういう勢いも持っている宮森さんだけど、その後の造りの説明を聞く限り、繊細さも兼ね備えた方でもあった。宮森さんはお父様から受け継がれて今のポジションにいらっしゃるのだけど、受け継いだ部分を大切にしつつ、新しい事にも挑戦して行きたい、と真っ直ぐ前を見つめていらした。
同い年という事もあってか、ヒデさんもいつになく饒舌。利き酒も、途中からは飲み会か?と思える雰囲気に変わっていた。手作業の大切さについての話で、ヒデさんが言う。
「やはり人間だからか、人の手でつくられた酒の方が、やっぱり美味しく感じますね。」
このヒデさんの発言は、何故かわからないけど、どこか新鮮に感じた。ヒデさんは多くの場合すごく現実的だけど、たまに最近はこういう発言をするからわからない。
宮森さんに話を戻すと、これまで造りへのこだわりを聞く機会は多くあったのだけども、こんな酒を造ってみたい!という、その造りの可能性をここまでワクワクと目を輝かせて話す人はいなかったかもしれない。
それを聞くのは、とても気持ちの良いものだった。

福島日記後編へつづく