2010.05.14
奈良日記前編
歴史の街、奈良へ。季節は5月半ば。先週の滋賀の時と、また山々の表情が変わっていた。緑は濃くなり、ドライブ中の視界を癒しの空間に変えてくれた。
まずは高山茶筅の谷村さんを訪問。茶筅(ちゃせん)とは、抹茶を点てるのに使用する茶道具のひとつで、茶碗の中でかき回すものだ。最近、お茶会に連れて行ってもらうなどし、お茶に関しての興味が深い様子のヒデさん。
訪問先の谷村さん宅は高台にある、整理されたお庭と和の雰囲気が満載の、いかにも伝統工芸師のお宅と感じるお家だった。ちなみに訪問先がどういう雰囲気の場所かというのは、僕の密かな楽しみでもある。
大きな窓に挟まれた、非常に風通しの良い部屋で谷村さんのお話を聞く。
この生駒市高山町は、日本の茶筅の生産量の9割近くを占めるらしく、なんと、近所ではエスプレッソを茶筅で泡立てる喫茶店もあるらしい。
とても落ち着いた雰囲気で、“いかにも職人”という印象の谷村さんだが、天気などに気分が左右される事や、朝からなにかしら指先が乗らない日が今でもあるのだという。けど、そんな日もあるさと、それさえも楽しんでらっしゃるように感じた。

その後、奈良市へ移動し、木画の坂本さんを訪問。
坂本さんは三代続く指物師(さしものし:釘を使わずに木工品を作る家具職人の事)で、正倉院の宝物の修理や復元をされていた方。静かな町の一角にある民家の裏手に作業場はあった。そこにはカンナやノコギリなどの道具と並んで、いくつかの作品が無造作に置いてあった。どれも手の込んだ、きめ細かな手作業が伺い知れるものばかり。
「木画って…」と呟いたヒデさんに、坂本さんがこうおっしゃった。
「木で絵を描くという表現が一番近いでしょうかね。」
僕は全くイメージが膨らまず、ポカンとして話を聞いていた。とにかく、0.1ミリ単位のズレも許さない、そんな匠の技らしく、聞いているだけでは全く想像できなかったのだ。
ただ、作品のひとつに可愛らしい鳥の絵を見つけた。僕はやはり、作るより、出来たものを楽しむ方が好きだな、と素直に思った。

今日1日奈良市内を走ってみて思った事。
裏通りの道幅が、心なしか狭い。昔の名残なのかなんなのか…心なしかというより、かなり狭い。車1台やっと通れるかどうかの道がとにかく多い。この日もたまに車のナビがわざわざ裏道を行こうと僕らの車を恐ろしいほど狭い道へと導いた…。
ハラハラで運転しているのが伝わるのか、ヒデさんも壁と車の間を気にしたりしていた。
2日目、朝は5時半起きで東大寺へ。
今回の奈良県訪問に際して、奈良県庁の方には多大なる協力を頂き、特に寺社仏閣の訪問に関しては大変お世話になった。東大寺も奈良県庁の福野さんに案内して頂く。この人、とにかく顔が広い。県内のお寺、神社、どこにでも知り合いがいるから驚く。
東大寺と言えば奈良の大仏。
聖武天皇の発願で745年に制作が開始されたこの大仏様、延べ260万人近くが制作に携わったらしく、それは当時の人口からして半数近い人が関わった計算になるという。まぁそれだけの数字の記録が残っているというだけでも驚きと謎なのだけど…。
早朝と言う事で、境内にもまだ人はあまりいない。それでも、朝の清々しい時間に拝観しようと何人かの人々が仏像を目指していた。視界のあちらこちらには鹿が目につく。その時ふと、高校の修学旅行でこの場所に来た事を思い出した。

中門をくぐると、正面には世界最大級の木造建築である大仏殿が見える。
そこに続く道の両脇には、綺麗に整備された芝生の広い庭園があり、非常識とは思いながらも、「ここでサッカーやれたら最高ですね…。」と若い住職さんにコソッと言ってみた。
するとその住職さん、「実は、我々も大のサッカー好きでして…いつもここでやれたらいいのにって話してるんです…。」との事。
ヒデさんが大仏様の前で住職さんのお話を聞いている間、僕はトイレをお借りしたのだけど、予想とは違って洋式、しかもウォシュレット付きな上に便座も温かかった。そんな所で、過ぎた時代と今の交錯を感じた朝だった。

東大寺の後、奈良市より南へ25kmほど、桜井市にある長谷寺へ。
こちらも非常に有名な場所らしく、沢山の観光客で溢れていた。仁王門をくぐると、眼前には長い登廊が。ヒデさんと住職さんを前方から撮影しようと彼らよりも先に駆け上がる。僕らはこれを「旅ダッシュ」と呼んでいる。全部で399段、キツい…。夏だったら…、と思うと気を失いそうになってしまった。(この日は5月中旬。)
やっとの事で登り切り、ゼェゼェ言いながら必死になってヒデさんにレンズを向ける。ずっと話しながら登ってきたはずのヒデさん。僕らとは対照的に、全く息を切らしていない、汗もかいてないではないか。
「一体どんな体してるんだよ…」とブレブレの写真を確認しながら、溜め息をついた。

階段を登り切るとすぐに本堂が目に入る。その中には高さ10mを超える観音様が。そして本堂の前にはテラスのような舞台が断崖から張り出すようにしてある。桜の季節はそこからの景色がすごいらしいのだけど、「399段も登った甲斐があったなぁ…」と素直に思えるほど、その景色には価値があったと思う。
奈良日記中編へつづく