2012.11.27

宮城日記中編3

新澤醸造店さんを出た僕ら。次の訪問先は八重樫仙台タンス金具工房さん。八重樫さんにお話を伺う。
八重樫さんは、仙台箪笥の飾り金具を作る職人さん。仙台タンスの錠前や引き手、ちょうつがいなどに取り付けられる飾り金具は、どこか重厚でカッコいい。八重樫さんの作品を幾つも並べて見せて頂いたのだけど、どれも手作りとは思えないほど精巧で、美しい。
 

八重樫さんのお話、「え?」という小さな驚きが随所に散りばめられている。
「皆さん、腕の良さの事をよく言われますが、道具です。良い道具を作れるかがものすごく大事なんです。」
他の工芸の職人さんもそうなのだけど、道具はご自分で作られる。色々なものを応用したりなど、市販されていないものばかりをこれまでも幾度となく見て来た。
八重樫さんの作業は、金槌でタガネをひたすら打つ事が基本だ。ひたすら打ち続けて、形を精巧に作って行く。
「色々これまでの旅でも見てきたのですが、鍛金、彫金は一番大変に思えました。このひたすら打ち続けるという作業が途方もなく感じられて…」とヒデさんが言うと、「けどこの仕事は楽しいですよ?」と屈託なく笑って話される。
「叩く時に、リズムに乗れていれば疲れません。ちなみに、乗っている時はうちの(奥さん)は来ませんから。音でわかるみたいです。」
きっと、そう口数の多い方ではないのだけど、その文脈から奥さんとの仲の良さが伝わって来た。
「素朴な質問なんですが、お休みっていつ取られるんですか?」とヒデさん。
「タガネを握らない日は年に1ヶ月もありません。毎日の事だから、休むと調子が狂っちゃうんです。」
まさに感覚でお仕事をされているというのを証明された気がしたのだけど、最も印象に残っている八重樫さんの言葉からは、ある信念を痛烈に感じさせられた。
「何かを頼まれて、うちは断った事がないんです。職人だから、出来ないなんて言えないんです。」
職人と呼ばれる人達が、一段とカッコ良く思えた。
 

それから僕らは松島町へ戻り、最後に藤田喬平ガラス美術館を訪問してからこの日は終了。
3日目、まずは早朝より瑞巌寺・五大堂を訪問。そこに行くまで、海沿いの道をずっと走っていたのだけど、朝日に照らされて、本当に気持ちが良かった。到着して車を降りる時、どれだけ寒いのだろうと覚悟していたのだけど、2℃だった割に、風がなかった為にそこまでの寒さは感じなかった。
その後で僕らは円通院へ。ここ、門をくぐると視線の先には、とても美しい紅葉に彩られた庭園が広がっていて、副住職の天野さんのお話を聞きながらぐるっと一周。本当に気持ちの良い場所だった。
 

その後は、日本三景のひとつである、「松島」をまわる、松島島巡り観光船ツアーへ。時間はだいたい40分程で、湾内であまり揺れもないという事で安心した僕。ヒデさん含め、厚着で防寒対策をした僕らは少しハイテンションで船に乗り込んだ。松島島巡り観光船企業組合の伊藤さんにお話を伺ったのだけど、離れて座っていた僕、伊藤さんの声は風にかき消されてほとんど聞き取れなかった…。
松島湾には、大小、260ほどの島があるらしく、船でその島々の脇を通る度にその名前と由来を教えて頂いたのだけど、それ以上に海の上にいる事が気持ち良くて、寒いながらも単純にクルージングを楽しませてもらおうと気持ちを切り替えた。
 

それから酒造の株式会社佐浦さんへ寄った後、杜の菓工房さんを訪問。ここはスイーツ大好きのヒデさんが、以前よりオススメだった事からの訪問となった。
お話を伺った南部さん、元々は飲料系の会社に勤められていたとの事、定年してから、居抜きの物件を見つけて開業されたらしい。このお仕事に関して、「良い事と言えば、自分達で表現出来る事、ですね。キツいのは、やっぱり資金繰りです(笑)」と話されるように、最初は経営面でも相当に辛かったそうで、「本当に苦しかった時に、高速道路のサービスエリアに置いてもらえる事が決まったんです。本当に嬉しくて、帰りの車では泣いていました」という。
僕らが旅で訪問する方々は、ある意味で成功された方達なのだけど、誰にでも、こういう時期がある事は無視出来ない。ただ、やはりそういう経験があるからか、今でもチェーン展開する小売店などからお話をもらう事も多々あるそうなのだけど、「自分達の良さが消える」という理由から、全てお断りされているという。
そんな南部さんが、こう話される。
「僕たちは新しいものを作ろうとは思ってないんです。既にある物を、自分達ならこう表現する、というスタンスでやっていきたい。」
南部さんは、話をする時に「僕たち」という言葉を使用される。一緒に働くスタッフの方への思いやりが滲み出ていた。
 

この日最後の訪問先は門馬箪笥店さん
こちらは明治時代からこの土地で仙台箪笥の製造販売をされている。お店には色々な大きさの様々な箪笥が。どれも漆の色の深さと金具の重厚さが高級感を醸している。
 

そしてお店の奥には、そのまま住み着いて本でも開きたくなるような素敵な和室の展示コーナーが。
 

「うちの強みは職人がいる事です。お客様の要望に沿った御誂えがたいてい可能です。」
そう話して下さるのは門馬一泰さん。最後にお店の裏手にある職人さん達の作業場をご案内頂く。黙々と、確かな腕で作業に打ち込む年配の職人さん。ヒデさんがジッと佇んで見ていると、どちらからともなく、会話が始まった。話題が漆へと移り、こちらで使われているのは岩手県の浄法寺の漆だとご説明頂く。するとヒデさんがこう返す。
「あ、そうなんですね。僕、そこに漆をかきに行った事あります。」
まさか中田英寿が「漆をかきに行った事がある」など誰も予想できないとは思うけど、その時の皆さんの驚いた様子が忘れられない。
経験値を増やす事は、人とのコミュニケーションにおける手持ちのカードを増やす事と同じなのだ。それはヒデさんの、一番の強みだなと感じた。
 
宮城日記後編へつづく
 

■Staff Profile
日本全国47都道府県の旅で、現場マネージャー兼、カメラマン兼、ドライバーを担当。
10代でサッカーをするために単身ブラジルへ渡った経歴の持ち主で、
ポルトガル語・英語・フランス語を話す。