2010.01.24
高知日記
新しい年は高知の旅で始まった。
1月という事で、寒い。それでも、雪が降る訳でもなく、吹抜ける風の冷たさに眉をひそめる程度であった。
今回は、あの大分県にて犬のタマに尻を噛まれて、身を仰け反らせていた(日本テレビ「NEWS ZERO」の)渡辺プロデューサーも来ているのだけど、なぜか高知県に詳しい。聞けば、高知県には競馬の取材で何度か来ているらしく、馬についてのうんちくを語り始めた。この人は特に鳥にも異常な興味を持っているのだけど、とにかく色々な事を知っていて頼りになる人なのだ。
我々の最初の行き先は梼原(ゆすはら)町。愛媛県とほぼ県境にある。
高知県は県土の約84%を森林が占めるという日本一の森林県との事。その森林を環境先進企業と自治体とが間伐などを行って森を守る、協働の森づくり事業がこの檮原でも行われている。
南国のイメージがある高知県だけど、細い山道を進むにつれて雪が舞い始めた。
「寒そうですね・・」と後ろを見ると、ヒデさんはカットソーにシャツという薄着だ・・。
登れば登る程に降雪は激しくなり、ガードレールもない細い山道にはいつの間にか数センチも雪が積もっていた。
広島県のガソリンスタンドのおじさんに、「四国も雪が積もるからスタッドレスに換えないと危ないよ。」と忠告してもらい、タイヤ交換しといて良かった・・と心底思った。
「僕・・雪の上で運転するの初めてです・・」
と不安気に言うと、すぐ左の崖の下を覗きながらヒデさんが言う。
「右に滑るのは構わないけど、頼むから左にだけはスリップしないでくれよ、マジで・・。」
目的地に到着すると、そこは四国とは思えないほどの銀世界。今にも熊が出てきそうな雰囲気だった。
ここでは梼原町や高知県の担当者の方から色々なお話を伺ったのだけど、雪の中に薄着で黙って話を聞くヒデさんが気になって仕方がない・・。声も体も震えていないのが不思議なくらいの寒さである。

しかし、やはりというか取材が終わって車に乗り込むや「さっぶ!マジで寒いよ!」と手を股に挟んで寒がる彼。いったいこの人はどこまで強がりなんだろか・・と思いながら下りの雪道に思いを馳せ、下りの方が嫌だな・・と少し緊張した・・。
翌日は、山で塩を作っているという塩の邑工房を訪問。
山での製塩は海に比べて日照時間が短い事から、多くは作れないらしい。ただ海よりも強い日差しや湿気などの山独特の環境によって、よりミネラルを含む塩が作られるとの事。しかも丁度良い天気を見計らい、わざわざ海水を汲んで運んで来ているらしく、相当な手間も掛かっている。
これまで熊本県、山口県と塩を作られている方を訪問してきたのだけど、どちらも海のすぐそばだったので、今回のように周りに畑と山しかない場所だとどうしても違和感を持ってしまった。ただここではちょっと変わった脱水のしかたなどを見せて頂けたりと、同じ塩作りでも人や場所が変わればこうも違うものか、というのを感じる事が出来た。

そこから今度は、農業を志す人たちが集まる「有機のがっこう 土佐自然塾」へ。
ここでは毎年、全国から15人程度を受け入れ、徹底的に農業における現場の技術を実際に教えこまれる。卒業生のほとんどが高知県内にて就農しているといのは驚きだ。
これまで色々な農家さんを訪問してきて、ヒデさんも農業の現状、例えば無農薬や有機農法の魅力やそれを続けて行くための課題や厳しさなど、農家さんの心の声というのは沢山聞いて来た。そしてここの塾長である佐藤さんは、何か、そんな農家さんの心の声に対する答えを持っている人なのかもしれない、またはその答えを見つけてくれるんじゃないかと思わせてくれる、そんな人だった。

その夕刻の帰り道、道沿いに流れる吉野川をずっと見ているヒデさんが、「ここでドットネット(nakata.commude.site/wnakatanetp/)の10周年のコメント撮ろっか。」と言い出した。
川の畔まで降りて行けるような場所を探し、2m近くあるような背の高い草とそれに面した川との間の細い陸地を水に落ちないように縦一列になって歩き、やっとの事で撮影が出来そうな広さのある場所まで来た僕ら。
川をバックにヒデさんが大きな石の上に立ち、牧がカメラを構える。僕は石だらけの足下で音を立てて邪魔にならないようにと、少し離れた場所にいた。
ヒデさんは一発勝負に結構強い。こういう台本無しの時も、一発で終わらせる事が多い。
ただ・・僕は1人、自分の足下を見ながら不安になっていた。
来た時より、明らかに満ちて来ているではないか・・。
僕らは来る時、林と水面の間が1mもないような細い場所を通って来たのだ。
これはヤバい、早く知らせなくてはと思い顔を上げると、視線の先には喋りを噛んだか何かしらないが、笑顔でまた最初からやり直しているヒデさんがいた。足下には迫り来る水面。
「早く終わって欲しい。」
と心から願い続けて2分ほど、「はい貰いました!」と牧の声。それと同時に叫ぶ僕。一瞬ポカンとした顔をしてこちらを見る30代~40代の男達。
勘の良いヒデさんが来た道へ向かって走り出した。僕は最後尾からそれに続いて走る男達を、どこか冷静に見ていた。
既に運動という言葉を他人事として生きるようになったヒデさん以外の男たちの走り方は、石だらけの悪い足場を差し引いたとしても、コントをやっているとしか思えなかった。こんな場所で男5人が必死になって走っている。まるで子供がイタズラした後みたいに本気だ。来た時よりずっと幅が細くなった道を先頭で走るヒデさんがまた叫んでいる。
「牧、残って実景撮らなくていいの??」
ヒデさんのジョークは、必死に走る牧の耳には届いていなかった。
そして夜。まるでここはギリシャか!?と思わせるような宿「ヴィラ・サントリーニ」。穏やかな海を望む絶好の立地・・なのだけど到着は真っ暗になってから・・。
「あーこの真っ暗なのが全部海なんだろなぁ・・」と、部屋の前から暗闇を見つめていると、「そろそろ飯っすよ。いやー腹減りましたね。」と牧に呼ばれた。
今回はヒデさんが連載するアエラのスタッフの方も来ていて、夕食は6人と賑やか。席につくと毎度のごとく、ヒデさんがワインを選んでくれる。
最近でこそ日本酒に興味を持っているヒデさんだけど、それも元々は同じ醸造酒であるワイン好きが高じての事。僕もこの旅を始めてから日本酒を飲むようになったのだけど、確かに、白ワインと日本酒はとても似ている気がする。
最終日は高知県立四万十高校へ。
全国でも珍しい自然環境コースを持つこの高校は、四万十川の水質調査や動物・植物の自然保護活動も行っている。
ヒデさんがこの旅で学校を訪問するのは大分県以来なのだけど、この自然環境コースでどういう勉強をしているのかに興味があるらしい。
まずは山を調査している生徒たちの元へ向かった僕ら。
ここでも山を登るにつれて降る雪の量がものすごい事になってきた・・。
車道から、車では入れない山道の入り口付近には優に7cmほど雪が積もっていた。
とにかく、寒い・・。
山を登って行くとポイントポイントに生徒が待っていてくれて、木や土に関して、その状態などが環境問題に深く関係している事を説明してくれる。当たり前だが、みんなマジメだ。先生から時折「はっきり喋る!」とか注意されながらも、堂々と説明してくれていた。
先に引き返した僕は途中、視界の開けた所で足を止めた。その山は静かで、横殴りに降る雪が向いの山を覆う緑の木々をぼやけさせていた。熊本県出身の僕には非日常的な絶景。ほんの数分だったけど、僕にとっては寒さという表面的感覚など忘れてしまうほどの感動だった。
その後は山を降りて川へ。別のグループが、水質と川に生きる生物の調査を行っていた。
ここでヒデさん、防水具をつけて川に入る事に。生徒たちが僕らに見せる用として既に生物を採取しくれていたのだけど、実際に入らなければ本来の彼らの姿は見る事が出来ないのだ。
にしても川の水は冷たそうだ・・僕は既に皮膚の感覚がなくなっており、渡辺プロデューサーに「すみません、僕、鼻水出てませんか・・?」と聞くような状態だった。
水に入ったヒデさんを近くで撮ろうと、牧も防水具をつけて水に入る。仕事をする男は強い。まさにプロ、寒さなど関係ないのだろう。ただ、ヒデさんも当然深い所までは行けないので、陸にいる僕らからもそうは離れない。周りからは、わざわざ水に入らなくても、ズームでよかったんじゃない?などという声も聞こえはしたが、敢えてそれは牧には伝えなかった。
陸に上がったヒデさんが、生徒から生物の説明を受ける。と言ってもまだ高校生の子たち。時折曖昧な説明になったりするのだけど、ヒデさんは容赦しない。納得するまで、質問をやめない。ただ、質問に困った時でも、生徒は何か楽しそうだった。知識のインプットはあっても、こうして質問してくる相手にその覚えた知識をアウトプットする事は全くの別物だ。そういう機会はあまりないのかもしれない。新しい経験を、生徒も楽しんでいるようだった。
高校生にも容赦ないヒデさんだけど、きっと、彼の本当の魅力はこういう部分なのだと思う。相手が誰であろうと、同じ姿勢で接する事は意外と難しいのだ。

その取材の脇で寒さに震えて鼻水が出てるかどうかを気にしている僕に、ジャージを着た薄着の男子生徒が話かけてきた。
「こんにちは、寒くないの?」とだけ言った僕にその子は、自分がこの学校で勉強している内容を細かく教えてくれた。良い子だな、と思った。
ただ、僕は何を話せばいいか、何を聞いたらいいか、わからなかった。ヒデさんのように、うまく話せないのだ。けど、何か新鮮な気分に包まれた。
思えば、高校生と話をするなんていつぶりだろうか・・。そしてどうして彼の話がこんなにも新鮮に感じるんだろう・・。
これまで僕は、この旅では新しい事を知る事が醍醐味とばかり思っていたのだけど、そうじゃなさそうだ。自分が以前持っていたもの、いつかどこかで失ってしまったものを、また見つける事も、きっと旅の醍醐味なのだと、その生徒に気付かされた。
発見と再発見。次は徳島へ行く。